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海岸沿い、窓からビーチも見えるし大通りには近い。立地だけはいいが見た目は素朴で席はカウンター席しかないやけに狭い居酒屋、それが俺の店だ。平日だったせいか、今日はいまいち客足が少なく、今もたった一人しか客がいない。
「流石に飲み過ぎだよお客さん」
「バカ、これが飲まずにやってられるかよ」
とっくに赤い顔をした客が答える。こいつはうちの常連だが酒癖も女癖も悪ければ金払いも悪い。いやな三点セットの揃った迷惑客だ。うちの店の評価の星の数を減らすのは百歩譲って許すがたまにはツケの一銭くらいそろそろ払ってほしい。
「どうしたんだよお客さん。いつも以上に機嫌悪いじゃねぇか」
「どうしたもこうしたもない。『金色の魔弾』だよ」
金色の魔弾。最近噂になってる殺し屋につけられたあだ名だ。なんでも、品のない男を殺るのを好むらしく、ついつい客が盛り上がりすぎて避妊してもらえなかった娼婦だとかに大人気で商売繁盛してるらしい。さんざん"魔弾"を撃ちまくってる連中が魔弾を撃ち込まれて殺されているというのはどうにも冗談にしか聞こえないが。
「最近繁盛してるらしいな」
「そういう話じゃない」
「じゃどーいう話なんだ」
「耳貸せ」
耳を貸せというので俺は少し嘆息をして耳を貸した。アルコールは嗅ぎ慣れてるからいいがそれ以上に体臭がキツい。離れてほしい、今すぐに。
「これは情報屋から聞いた話なんだが、『金色の魔弾』が俺を狙ってるらしい。」
そう言って客は耳から離れて青い顔をしていた。赤くなったり青くなったり。お前は信号機か。まぁ確かに今こそ恐怖のせいか若干大人しくなっているがコイツはヤツに狙われても別におかしいことではないだろうとは思う。しかしまぁよくそんな情報が漏れたものだ。その情報屋とやらはよほど優秀らしい。
「情報屋から情報を買うカネなんてあったんだな。驚いたよ。」
「へへへ、最近羽振りが良いんでね」
「じゃあツケの代金、払ってくれよ」
「いいぜ」
素直にあれだけツケをつけるだけつけて払わなかった客があっさり札束を差し出す。明日は雪かね。
札を一つ二つ三つと数えて気付く。明らかに多い。これまでのツケと今日の飲食代を差し引いてもおつりが出るくらいだ。
「ホントに儲かってるんだな。これからもこれくらい払ってもらいたいもんだ」
どうせロクな稼ぎ方をしたわけではないのだろうが。
「まぁな。だがこんな状況だ。今日が最後の晩餐になるかもしれねぇ」
「それでこの飲みようか。気持ちはわからんこともないが、飲みすぎで『魔弾』に撃たれる前に身体がお釈迦になっちまったらそれこそほんとに最後の晩餐になってしまうかもしれないぞ?」
そう俺が言うと客はしばらく黙った。そして
「フン。ったくお前が興が冷めることをいうから酔いも醒めちまった」
と、ため息混じりに客が言った。
「そいつは悪かったな。で、飲み直すか?」
「バカを言うな。帰る」
「ケチるなよ。金あるんだろ」
「そういう薄汚ぇ商売根性が透けて見えるから帰るっつってんだよ。ボディーガードを雇う金も要る」
薄汚いのはどっちだか。
「そうかい。お客さん車なら送っていくぜ?」
「いらねぇ。家はここの店を出て右の角を言った先だからな」
「家引っ越したんだな。知らなかったよ」
「まぁな。これも臨時収入のおかげさ」
「羨ましい限りで」
そう俺が答えると客は舌打ちをして席を立ち、出入口の戸をがらがらと開けて出ていった。
それから30秒も経たないうちに入れ替わるようにして戸をがらがらと開けて15にも満たない歳の金髪の少女が入ってきた。少女は少しよじのぼるようにしてカウンター席に座り、言った
「日本酒。ロックで」
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