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クロエに手を振り返してやろうとしたとき、リナリィのすぐ近くを火花が通り過ぎた。リナリィが勢いよく横っ飛びするや否や、破裂音がして白色の炎が飛び散る。髪の先が炎にあぶられてチリチリと音を立てた。
「あっぶねえだろ!ド下手くそが」
観客に悪態をつきながら、リナリィは一回転した。柄の先端に吊り下がったランタンが暴れて、短パンからむき出しの膝にぶつかかってガシャ、と大きな音を立てる。
「くそ、今のでまた離された」
リナリィの前を飛ぶ箒乗り達は、すでに人差し指くらいにまで小さくなってしまった。先頭を突っ走っているグランディールに至っては、空中に残る青い光の軌跡しか見えない。
リナリィはランタンを掴んで、中を覗き込んだ。
薄いガラスを金属でつなぎ合わせた四角いランタンの中には、火種の代わりに握りこぶしくらいの石が入っていた。赤く輝く鉱石は、その周りに同色の火を灯す。
「押さえ気味で飛んでたから、まだまだ余裕あるな。グランディールのやつが調子乗って飛ばしてるっぽいけど、まあ届くだろ」
よし、とリナリィが箒の柄を強く握り直すと、火の勢いが増して、ランタンからはみ出すくらいの大きさになった。
「まくるぞォ!」
そうさけんだ瞬間、放たれた矢弓のように、箒は前へとすっ飛んでいく。あまりの速さで突風が生まれて、下で数人の観客が倒れ込む始末だ。
リナリィは一度の加速で前を飛んでいた集団に追いつくと、ひと息でかわす。
「な、エンデ!?あんなに差を付けていたのに!」
「はひ!は、速すぎ……!」
あっという間に抜かれた箒乗りの驚く声を背中で聞いて、リナリィは更に速度を上げる。
「まだまだァ!グランディールはどこまで逃げた!」
リナリィの前にエルムリッジ城の正門が目の前まで迫った。リナリィは体を引き起こし、ひっくり返りそうな勢いで箒を空へ向ける。
無理やり方向を変えられた箒は、斜め上へ吹っ飛んでいく。
城壁よりもかなり大きい正門を飛び越えたとき、革靴のつま先が何かをかすめた。
「あっぶねえ!私、校旗を蹴っぱらうところだった」
正門の最も高い場所には旗竿が建てられていた。かつてエルムブルクを治めた領家の紋章旗が掲げられていた場所には、今は別の旗が揺れている。
「王立魔法技術養成専門学校」
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