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 そんな唯一の居場所を失ったのは、世界の終わりの少し後、高校二年生の十一月のことだった。  母親が手続きを済ませ、家業を継がせますからと言っていたようだが、場末の水商売に身をやつし、日替わりで胡散臭い男をとっかえひっかえしている女の家業とは、一体何をさせられるのだろうかと不安に思う。  幸せの青い鳥も白馬の王子様もいないことくらいはわかっている。がしかし、現実世界での平凡な日常を夢見ることくらい、許してほしい。  梨々は母親の後ろを歩きながら思った。安っぽさが一目見てわかるツイードのジャケットとスカートは入学式の時と同じ格好だった。 「ママね、お店持たせてもらえることになったんだぁ。梨々ちゃんも手伝ってね」  くるりと振り向いて言った彼女は、珍しくはしゃいでいた。パールピンクの口紅がやけに艶やかだった。  しかし、その夜から母親は帰ってこなくなった。代わりに翌日から男がやってきた。二日毎に母親が連れ込んでいた胡散臭い彼氏の一人で、マキムラさんと呼ばれていた。暑苦しくてどことなく古臭い方言で喋り、背中に浮世絵みたいな荒武者の刺青がはいっている男だった。
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