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 マキムラは、梨々に、母ちゃんいるか、とだけ訊ね、いない、と答えると、苛立ったように舌打ちをして、上がり込んできたかと思えば、あっという間に梨々を押し倒して手篭めにした。  乱暴にされてショックを受けたが、似たようなことは失踪した父親にもされていた。  父親と違ったのは、マキムラは一万円をくれた。なんて安いのだろうかと思ったが、それが自分の価値なのかと思うとやりきれなくなって、考えるのをやめた。  マキムラは度々やってきて同じことをしていった。十回もならないうちに金をくれなくなったので、梨々の手元には八万円しかない。しかも光熱費も家賃も払えないので、電気が停められた。家にあった食料も尽きた。  梨々はどうにかしなければと焦燥に駆られ、空き巣のように家中を漁った。すると、光恵のけばけばしい下着の奥から名刺が出てきた。 “ Cafe&bar BlueBird  笹本恭平”  何の気なしにひっくり返してみると、ボールペンの走り書きで、 “ なにかあったら力になります”   と記されていた。
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