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 そっと拾い上げ、中を見る。心臓は飛び出そうなほど鳴っている。中には十枚の一万円札と五千円札が二枚と千円札が九枚あった。梨々はそれらを抜き取り、極力足音を立てないようにトートバッグを持って、モカピンクのベロアの胸元が空いたカットソーと黒い伸縮性のある生地でできたミニスカートにラビットファーのショートジャケットを羽織り、黒いニーハイブーツを手に、裸足で部屋を飛び出した。このコーディネートは光恵の趣味で、梨々の趣味ではない。大人っぽく見える格好というかまともに外に出られそうな服が光恵の物しかなかった。梨々は裸足のまま、最寄りの駅までできる限り全力走った。足の裏が痛くて小石を踏む度、膝が折れそうになったが、それよりもマキムラに気づかれて捕まるのが恐ろしく、肺が痛くて呼吸も苦しかったが、歩く気にはなれなかった。  梨々は駅舎の前でやっとブーツを履いた。そして、震える手で新宿駅までの切符を買った。新宿駅から夜行バスで九州に向かう旅番組を思い出したからだ。電車を待っている間、マキムラがやってきたらどうしよう、と気が気ではなかった。ようやく電車が来た時も、ドアが開くのがやけに遅く感じて苛ついた。
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