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「かわいいお友達ね。ゆっくりして行って」
川瀬先輩の住むマンションは、
船橋駅から北に歩いて10分かからない
ところにあった。
川瀬先輩によく似たお母さんに出迎えられ
部屋に入ると、慣れた様子で岸野先輩が
隅にカバンを置き、傍らに立てかけられた
折畳みテーブルを部屋の真ん中に設置した。
「油谷くん水野さん、お腹空いてたら
遠慮なく言って。母さんに相談するから」
と川瀬先輩が言った。
「あ、お構いなく」
確かに夕飯時だ、いつもなら食べている。
とはいえいきなりお邪魔して、図々しく
ご馳走になるのは違うじゃんか。
そう思って静かに断ったつもりだったが、
岸野先輩の隣にちゃっかり座った水野は
満面の笑みで言い放った。
「じゃあ、いただきます♪」
「おい、水野」
慌てた俺に岸野先輩は笑い、
「キッチン行って来る。よく友達来てるし、
たぶん大丈夫」
と答えた川瀬先輩と一緒に部屋を出て行った。
「お前、図々しいよ」
水野の肩を小突くと、水野はへへっと笑い
「だって憧れの先輩たちとごはんだよ?
こんなチャンス、滅多にないじゃん」
と言った。
「それにしても話したいことって何だろう」
「先輩たち、もうすぐ受験で忙しいしね」
単に僕たちと遊びませんかではないと思うと
水野は言葉を続けた。
「当たり前だろ」
「ふ。ごはん何かなー」
「全く、呑気な奴」
まあそんなところも好きだけどさ。
水野の飾らない笑顔に密かに癒されていた。
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