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告白
20時半。
川瀬先輩の家を水野と出た俺は、
どうしても読んで欲しい漫画があるからと
水野に迫られ、水野の自宅に足を運んだ。
「遅くなった挙句、オトコに送ってもらう
なんてって親がびっくりしないのか」
「あぶちゃんの話はしてるし、大丈夫」
どうぞと門扉を開けた水野の後をついて、
中に入った。
「ただいまー、あぶちゃん上げていい?」
玄関先で水野が呼びかけると、お母さんと
思われる女性が顔を出した。
「あゆみ、おかえり。ごはんは?」
「岸野先輩の彼氏んちで食べてきたー」
「んー」
おい、お母さん。突っ込まないのかよ。
半ば呆れながらお母さんに頭を下げ、
靴を脱いだ。
「いい漫画があるんだ、絶対に読んで」
「何の漫画なんだか」
階段を上り、廊下の奥にある部屋。
ドアを開けた水野が振り返る。
「初めて、お父さん以外の男子が入る」
「えっ」
一瞬怯んだ俺の腕を取り、水野は部屋に
引き込んだ。
ベッドの上には、熊の巨大なぬいぐるみ。
ピンクとベージュが基調の女の子した部屋を
目の当たりにしてドキドキした。
「あぶちゃん、これから先輩たちにご指導
受けちゃうんだから勉強しないとね」
「‥‥あ?」
「聞いてた?何、ぼんやりしてるの」
笑った水野に肩を小突かれ、咳払いした。
「で、漫画って何だよ」
「これ」
差し出されたモノを見て、固まった。
表紙は若くてかわいい男子が2人、
今にもキスしそうな勢いで顔を近づけている。
「私のオススメ、面白いよ」
「‥‥ちょっと待て」
目眩がしていた。
何を好き好んで、片想いの相手から
BL漫画を借りる羽目に?
「だって、あぶちゃん。これから岸野先輩
たちにシェアされるんでしょ」
「まあそうだけど」
実はシェアと言われても、
イマイチよくわかっていなかった。
エッチなことはないと言ってたし、
放課後とか休みの日に会うくらいかと
思っていた。
水野にそう伝えると、えー絶対違うよと
笑われた。
「あぶちゃん、モテて困りたくないかって
訊かれた意味わかってる?」
「え」
「たぶんキスくらいはするよ。先輩たちと」
「嘘だろ」
「岸野先輩の色気。川瀬先輩が関係してるに
決まってるじゃないの。どうやって得られた
のか教えてもらいなさい」
「漫画は何の関係が」
「予備知識」
いいから持って帰ってと押し付けられ、
渋々カバンにしまった。
「お母さん、あぶちゃん帰るってー」
そう言って、水野は再び俺の腕を取った。
開け放たれていたままの部屋のドアから
廊下に出て階段を降りながら水野に訊いた。
「俺はどうしたら」
「素直に受け入れたら拡がる世界が、
きっとあります。頑張ってね♪」
バイバイと水野に家から放り出された俺は、
船橋駅までの道を足取り重く帰った。
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