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発端
それは俺の意志とは無関係に、
予期せぬ形で飛び込んできた。
3年の岸野葵は、常に俺の先を行く人だ。
いつも穏やかに周りを気遣える優しい性格。
書道の腕は他を圧倒するほどの実力で、
美人の彼女と美形の彼氏とは体験済と聞く。
その余裕から
日々漏れ出している、色気という名の魔力。
赤く艶やかに光る肉厚な唇。
何かを指し示す時にしなやかに動く指先は、
男の俺でもドキドキしてしまうくらいだ。
「岸野先輩、今までにどれくらい告られて
ます?」
部室で近日中に提出する課題について
話し合っている時、
気になって話題を振ってみたが、
「油谷くんほどじゃないよ」
と微笑まれて、苦笑いした。
「俺の何を見てそんなことを言ってます?」
「あれ。キミはモテたことないの」
こんな風にはっきり言いたくないことを
自然にかわす話術まで持ち合わせる先輩は、
俺の憧れだ。
そして、最大の先輩の魅力と言えば。
「あぶちゃん、部活行くよー」
「うん」
同じ1年B組、同じ書道部の水野あゆみは、
硬派を自負する俺と
入学早々に話すようになった唯一の女の子。
152センチと小柄、ショートカット、
よく笑いよく食べるという
俺の好みドストライクな彼女に惹かれる
までさほど時間はかからなかった。
そんな彼女は岸野先輩推しを公言している。
もともとBL好きだって言ってたし、
そんなに気にしなくてもいいのかな。
でもなあと水野の視線の行方が
いつも気になってしまうのは事実だ。
水野の心を掴む岸野先輩。
いっそ、岸野先輩になりたい。
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