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孝介さんの背中を追い、寝室を抜け、廊下を歩くとリビングに着いた。
「立派なマンションですね」
カウンターキッチンと連なるリビングの壁には大型のテレビ、ローソファもテーブルやラグまで上品な雰囲気だ。
「そう?今は1人だけど同居人がいたからかな」
「同居人、ですか?」
「そう。ちょっと待ってね。頭痛むでしょ。鎮痛剤飲む前になにか腹に入れておかないとだけど」
不意に孝介さんが冷蔵庫の前で振り向いた。
「苦手なものとかはある?固形物は辛いとかは?吐き気はない?」
「あ、大丈夫です」
孝介さんが安心したように屈託ない笑みを見せた。
「良かった。俺も腹減っててさ」
「...俺が起きるの、待っててくれたんですか?」
「んー?」
冷蔵庫を漁りながら孝介さんが微かに鼻歌を歌ってる。
「いや?二度手間になるじゃない?纏めて作って一緒に食べたら洗い物も楽だし。簡単な物でいい?」
「はい」
手馴れた様子で孝介さんはキッチンに立ち、調理を始めた。
「なるべく早く作るけど、適当に座ってて?暇ならテレビ付けてもいいし」
振り返ること無く、そう告げる孝介さんの言葉は冷淡とは程遠く、優しかった。
「お待たせ」
運ばれてきた朝食。
ベーコンエッグにサラダ、トースト、オレンジジュースにミネラルウォーター。
孝介さんはオレンジジュースではなく、ブラックのホット。
「美味そう」
「二日酔いにはさ、ベーコンとオレンジジュースがいいらしいよ?さ、食べよ。腹減った」
腹減った、を何回言うのかな、思わず口元が綻んだ。
「一応、玉子、塩こしょうしてはいるけど。なんかいる?」
「なにか、て?」
「ケチャップとかマヨとか醤油とか?」
「いえ、このままで充分です。いただきます」
昨夜、初めて会ったばかりの男性宅で一緒に朝食、て何だか不思議な気分。
だが、悪くないかもしれない。
何も知らない当時の俺は単純にそう思ってた。
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