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それから数日後のこと。
孝介さんから妹さんの舞さんを紹介された。
女性にしては長身でスタイルも良く、黒髪のロングヘア、キリッとした瞳。
服装はカジュアルながら案の定、美人さんな妹さんだった。
元カノの美由とは全くタイプが違う。
美由は如何にも、な、女の子だったが、キャリアウーマン、て感じ。
「祥吾くん、よろしくね」
「お手柔らかにな、舞」
「わかってるわよ。お兄ちゃんのお友達でしょ」
にこ、と舞さんは孝介さんに不敵な笑みを返した。
ビルの5階に舞さんの勤めるタウン情報誌の会社があった。
デスクに座る社員さんたちから、飲み物を頼まれれば買いに行ったり、食事の出前を頼んだり、食事が届いたら社員さんたちに伝え、頼まれたらコピーや書類を纏めたり、雑用ながらなかなか多忙だった。
「お疲れ様、祥吾くん。仕事は慣れた?」
週に3、4日ほど、バイトを任された。
とりあえず、バイトさんが見つかるまでとのことだ。
「はい、なんとか」
「そう、良かった。今日、終わったら食事でもどう?居酒屋にする?」
「えっ」
「安心して、私の奢り」
片手で腰を抑え、にっこり舞さんが微笑んだ。
そうして、舞さんの行きつけらしい居酒屋へ。
舞さんはハイボール、俺はビール。
「とりあえず乾杯!」
「乾杯」
互いにぷは!と一口。
「歓迎会とかね、したいんだけど。正式なバイトって訳じゃないし。ごめんね、なんか。みんな結構、原稿やら取材やらでバタバタしてたりもしてね。締め切りもあるし」
「ああ、大丈夫です。気にしてませんし」
やっぱり兄妹だな、と思った。
気遣いできる孝介さんと似ている。
「好きなもの頼みな。私はー、焼き鳥かな、とりあえず。あとは...だし巻き玉子でしょうー。お刺身の盛り合わせもいっとく?」
「いいですね」
二人で舞さんの頼んだ料理をシェアし、俺も舞さんも飲み物もお代わりし、料理も追加した。
「....祥吾?」
不意に呼ばれ、振り返ると...久しぶりに見る美由の姿があった。
「美由...」
美由は女友達らと一緒らしい。
「...もう彼女出来たんだ?」
「...は?」
「誰?祥吾」
突然、カウンターの隣に座る舞さんが、祥吾呼び。
いつもは必ず、祥吾くん、なのにだ。
「...ああ。浮気されたとかいう彼女?ほっとこ、料理が冷めちゃうよ」
隣の舞さんがにこ、と微笑み、あろうことか、あーん、と箸で二つにしただし巻き玉子を口元に添えられ、不意打ちだったので思わず食べた。
「美味しい?祥吾」
「ま、まあ...」
「....行こ」
「あ、美由」
美由の女友達が足早に店を出る美由の後を追っていった。
「はあ...たく。自分から浮気して別れ切り出したのに、なんだかね」
いつもの舞さんに変わり、呆れた顔でハイボールを傾けた。
思わず、ぷ、と吹いた。
「ん?」
「いや、やっぱり似てるな、て孝介さんに。すみません」
「私がお兄ちゃんに?言われた事ないや」
肩を竦め、舞さんが笑う。
「今日辺り、お兄ちゃんのとこ、行ってみたら?」
「孝介さんのところ、ですか?」
「うん。頑張ってるアピールしたらさ、なんかくれるかも」
ふふ、と舞さんが狡猾気味に笑う。
「孝介さんと知り合ったのも居酒屋で、ここではないんですけど」
「あー。お兄ちゃんから聞いてるよ、ある程度。失恋して参ってると思うから、てバイトに勧めてくれたの。祥吾くんもいい気晴らしになるんじゃ、てお兄ちゃん思ったみたい」
そう言うと大口を開けて舞さんはだし巻き玉子を頬張った。
「そう...だったんですね」
「バイトくん見つかるまでよろしくね」
「はい」
頼もしい、お姉ちゃんみたいな舞さんにすっかり手懐けられた感。
そうして、久しぶりに孝介さんのマンションへ行き、玄関先でインターフォンを鳴らした。
「祥吾?ちょっと待って。今、開ける」
カジュアルながら清潔感のある私服姿の孝介さんに出迎えられた。
「舞さんに奢ってもらって、少し飲んで来ちゃいました」
「そっか。ありがとう。お疲れ様」
孝介さんの笑顔に俺も笑顔を返した。
リビングで1人、ワインを傾けていたらしい孝介さんに付き合い、俺も一緒にワインを嗜んだ。
「祥吾なら安心だよ」
「...?何がですか?」
「舞のこと」
「...舞さん、ですか....?」
「好きなんじゃないの?舞のこと」
「ま、まさか。そんなんじゃないですから!」
「そう?お似合いだと思うけどなあ」
ワインで軽く酔っているようでほんのり顔が赤い孝介さんの横顔を眺め、俺もグラスを傾けた。
「...俺が好きなのは孝介さんですよ」
一瞬の間の後、孝介さんは腑抜けた様子で、
「え?」
と目を丸くした。
「冗談ですって」
「なーんだ、びっくりするじゃん」
そう笑う孝介さんだが、そこまで驚いた様子ではなかった。
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