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「軽くなにか作ろっか」
既にだいぶ飲んでいたらしい孝介さんの口調は辿々しく、若干、千鳥足気味だ。
「いや、大丈夫ですから、孝介さん」
「んー?でも、すきっ腹は良くないでしょ?あ、祥吾は舞と食べてきたんだっけ」
そう言いながら以前から思ったけれど、孝介さんは料理が得意なんだと思う。
「はい、どうぞ。良かったら食べて」
カプレーゼと椎茸...?
「椎茸の軸を取ってチーズ入れて焼いただけだけど、これがワインに合うんだ。味噌とマヨネーズを混ぜてディップしたのを軸の部分に入れて焼いても簡単で美味しいよ」
白ワインのグラスを傾ける傍ら、椎茸のチーズ焼きをいただいた。
「....ん、まっ」
「本当?良かったー」
チラ、とワインを煽る孝介さんを盗み見してから...
「...にしても孝介さん、飲みすぎじゃないですか?ビールだけじゃなくワインも一本空いちゃってるし」
ワインは既に一本空いていて、ガラスのテーブルにはビールの空き缶が数本、散らばっている。
「んー?祥吾が来たから二本目に突入したね」
ケラケラと孝介さんが軽快に笑う。
「記念日だからさ、今日」
「記念日、ですか...?」
「元彼がねー、出てって半年記念日!なんかさー、俺、重いらしくって。あ、体重じゃなくね!世話焼きだからか、お前はおかんか、てさ、いっつも言われんだよね」
そうしてまた孝介さんはグラスを傾け、飲み干して空になったグラスにワインを注ぎ始めた。
「孝介さんがおかん?孝介さん、男じゃないですか」
不意に思い出した。
『飲みっぷりがいいね』
話しかけられた居酒屋で出会った夜や、
『ちょっと。大丈夫?君』
慣れない日本酒を頼もうとしてる俺を心配し、挙句、酔っ払って居酒屋で寝てしまった俺を連れて帰り介抱してくれ、二日酔いの朝すらも...
『ちょっと待ってね。頭痛むでしょ。鎮痛剤飲む前になにか腹に入れておかないとだけど』
『苦手なものとかはある?固形物は辛いとかは?吐き気はない?』
『二度手間になるじゃない?纏めて作って一緒に食べたら洗い物も楽だし。簡単な物でいい?』
孝介さん本人は腹が減ってたらしいのに、俺が起きるのを待っていてくれて、好き嫌いなどを尋ねてくれながら朝食までご馳走してくれて...。
しかも、俺に頼んだ妹さんの勤める会社の仕事の雑用は、
『あー。お兄ちゃんから聞いてるよ、ある程度。失恋して参ってると思うから、てバイトに勧めてくれたの。祥吾くんもいい気晴らしになるんじゃ、てお兄ちゃん思ったみたい』
舞さんから知った事実は孝介さんの思いやりからのことだった。
「....赤の他人の俺に親身になれる孝介さん、て素敵だと思います、俺」
グラスを口元まで持っていき、深酔いで澱み、色香のある孝介さんの眼差しはどことなく探るかのようだった。
「良く引かないよね、祥吾。俺、ゲイだってカミングアウトしたようなものなのに」
「...孝介さんがゲイだとか俺は気にしない。
ただ、孝介さんの彼氏さんは...なにもわかってない、です」
無言で俺を見つめる孝介さんの唇にキスをした。
次第に激しめのディープキスに変わるまでそう時間はかからなかった。
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