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大型犬が嬉しそうな顔で「でね、体育のイマセンが」と話している。話している内容がわか?のに、わからないのはきっと、私の問題なんだと思う。
「なぁ、ちゃんと聞いてる? 聞いてないよね?」
「聞いてるよ、体育のイマセンの話でしょ」
うんうんと頷きながら周りを見渡しても、みんな普通の高校生だ。犬に見えるのは彼氏のカツキだけだ。大型犬、それも多分、ゴールデンレトリバー。
犬種まで考えられるあたり、まだ私は冷静だったのかもしれない。それでも、戸惑っている私を置いてけぼりのまま、大型犬、もとい私の彼氏のカツキは、キャンキャンと話を続ける。
そもそも、カツキが犬に見え始めたのは、数日前の一周年記念日の日だった。一周年だから、と嬉々としてプレゼントを用意して待ち合わせ場所に着いた私。そんな私にくれたものは、友達と出かけるからキャンセルというあまりにも残酷なメッセージだった。
「やばくない? めっちゃウケない?」
うんうん、ウケない。至って普通の行動のように、前脚で器用に私の作ってきたお弁当を食べているし、変な目で見られることもないから。犬に見えているのは、私だけなのだろう。
私が一人で脳内会議してることを気にも止めず、カツキは友達がー、授業中にー、と一人で絶え間なく話し続ける。
「ねぇねぇ、どうしたの。さっきから心ここに在らずじゃん」
しゅんっと耳を垂らして、不安そうな表情をするカツキは可愛く見える。でも、私の足を前足で蹴り蹴りと蹴ってる様は、少し、いやかなり鬱陶しい。
「なんでもないよ、続けて」
私の言葉は耳に届いていないようで、キャンキャンと変わらず吠え立てながら私の足をトントン前足で蹴っている。人に見えていたら、どうしたのとポンポン叩いてる感じだろうか?
「聞いてるから続けてって!」
犬に見えるようになってから、イラつくことが増えた気がする。あれ、違う。犬になる前からだっけ? 一年も一緒に居れば嫌なところも、目につくようになるのだろう。
零したいため息を、なんとか飲み込む。
「ねぇ、なんで? 俺なんでも聞くって言ってるじゃん」
聞くだけ、ね。苛立ちが強くなって、唇を噛み締めた。
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