私の彼氏は大型犬

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 家でホットプレートの焼き肉をしていた時のことを思い出す。  お母さんが必死に焼いた側から、私も姉も父も食べる。母が食べられるのはいつも最後だった。大人になった今でも変わらない。 母に一度言ったことがある。「もう自分で出来るから、いいよ」って。 「おいしく焼いて、おいしそうに食べる顔を見たいだけなの。いいのよ、私のことは」  なんて言っていたから、食べるのも親孝行かと思って最近は甘えている。でも、その気持ちがわかる。  女だから、ご飯を作るとか。彼氏に尽くすとか、そういうことじゃなくて。子供にするように、美味しいものをただ幸せそうに食べてる姿がたまらなく好きなのだ。  それでも、とかとか、一言あってもよくない? 子供じゃないんだし。私だってわざわざ朝早く起きて作ってきてるんだし。 「やば、小テスト勉強してねー」    掃除機のようにぱくぱくとサンドイッチ吸い込みながら、変わらず目線はスマホだ。うるさいくらい話しかけてくるくせに、私の様子には注意も払わない。  また、胸の奥でひとつちくん。  私の胃の中は、多分きっと棘だらけだ。  思うところがあるのに、言えないのは多分喧嘩したくないから。嫌われたくないとか、そういうレベルの話ではない。話が通じなくて疲れるから言わない。  何を言っても話をすり替えて、「そんなつもりはなかった」だの、「俺だってこう思ってる」だの。自分が言いたいことだけ言って気持ちよくなって、「ごめんね」って思ってない言葉を紡ぐだろう。  平坦な、感情の籠らない言葉を。  食べ終わったお弁当箱をかちゃかちゃと片付けながら、スマホを見つめるカツキの言葉を聞き流す。お弁当箱をしまうことすら、できないんですか、なんて文句の一つすら口に出せない。 「いや、沙織。俺前から思ってたんだけど。もっと丁寧に扱ったほうがいいと思うよ。ガチャガチャ鳴らしてさ」
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