私の彼氏は大型犬

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   先生の終礼の挨拶を聞きながら、荷物をカバンに詰め込む。笹田さんの方も、片付けをしていた。  プルルっとポケットの中でスマホが、着信を告げる。開けば、またぺしょんという擬音のついた犬。1回目は可愛いけど、何回も来るとなんか鬱陶しいな。 「細川さん? 帰れる?」  笹田さんの方も準備が終わったようで、私の前で待っていた。 「あぁうん、いこ」 「私のおすすめのクレープでいい?」 「うん」 「じゃあ、駅前の方かな!」  笹田さんに案内されてたどり着いたのは、駅前に出てるキッチンカーのクレープ屋さん。犬の顔したキッチンカーにクスッと笑ってしまう。   「お洒落なクレープやさんだね」 「ここ、おいしいんですよー」 「そっか」  ラミネートされたメニューを渡されて、目を通す。 「何にしますか? 甘いのもしょっぱいのもおすすめです」 「生クリームが入ってるやつがいいな」 「だと、このキャラメルのやつですね」 「それにする!」 「じゃあ頼んじゃいましょう」  笹田さんが目の前でスラスラと呪文のようにクレープのトッピングをしていく。その様子を見ていれば、常連なことがわかってしまう。  意外だな、と言う言葉は飲み込んで焼き上がるのを待つ。 「はい、まずは細川さんの」  渡されたクレープには、焼きごてで肉球のマークがつけられていて可愛い。もしかしたら、笹田さんは犬が好きなのかもしれない。  笹田さんもクレープを受け取ったのを確認して、近くのベンチへと移動する。  一口食べれば、解けていくような甘さに心の棘が少しだけ抜けていく。   「笹田さんのとこはさ、喧嘩するんでしょ」 「言わないと伝わないですからね」 「疲れない?」 「喧嘩ですか?」 「相手に感情を使うの」  そう、結局はそう。私は、疲れたくない。学校の人間関係に疲れて、親の期待に疲れて、あいつでまで疲れたくないから言うのをやめた。 「でも、ずっと一緒に居たいので。我慢し続けで爆発する方が疲れませんか?」  たしかに、それも一理ある。 「彼氏が犬に見えんの」 「犬ですか?」 「そ、人間じゃないの。わんちゃん」 「言葉が通じないって意味ですか?」  笹田さんの一言にぴたりと固まる。そう言うわけではない。と思う。
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