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「違う違う。わかんないけど、本当に犬に見えるの」
「犬とデートできるんですよねぇ、いいなぁ」
「何もできないで吠えるだけだよ?」
「躾けてないからじゃないですか? もしくは、信頼関係が築けてないとか」
出てくる言葉に、少し戸惑う。笹田さんは意外に腹黒いなぁ。そして、やっぱり犬好きなんだろう。返ってくる言葉が、そうとしか思えない。
「あ、彼氏さんの話ですもんね、間違いました」
目が覚めるような感覚だった。信頼関係が築けてない。付き合って一年も経つのに。
「だって、喧嘩するのも、疲れて何も言わないのも信じれないってことですよね。彼氏さんのこと信じてないからじゃないですか?」
ズバズバと切り捨てられる言葉たち。ぐっと喉の奥に言葉が詰まって、何も出てこなかった。多分、笹田さんの言ってることは、正しい。私が信じてないから何も言えないし、何も頼めない。
でも、信じさせてくれない彼氏が悪くない?
「他人ですから! カップルなんてただの他人ですよ。夫婦だってそうですよ、家族の形した、他人ですよ。分かり合えませんよ、一生。甘えちゃダメですよ彼氏だから。って! 他人なんですから」
繰り返される他人という言葉に、ほんの少し胸の奥が痛む。
「他人他人って」
「他人ですよ。他人と一緒になるために話し合って、喧嘩し合わないと、分かり合えないんです。彼氏は他人です。家族だってそう、他人なんですよ。言わなくても伝わるだろう、察してくれは甘えですよ」
すとんっと、胸の奥でつっかえが落ちた音がした。カツキのあのイラつく言動の数々を許したわけでも、胸のチクチクが取れたわけでもない。けど、私も甘えていたという事実が腑に落ちた。
「そっか、私甘えてたんだぁ」
気づいた時にはポロポロと涙が溢れていた。私はこんなに頑張ってるのに、なんで気づいて気を遣ってくれないの? って甘えてた。
「私も気づけよって甘えてたのかぁ」
「なんで泣くんですか」
「ショックなんだもん。私も悪いんだ」
高校生がクレープを食べながら涙を溢している姿は、側から見たらとても気持ち悪いだろう。それでも、溢れでる涙は止まる気配も見せない。
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