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「話は最後まで聞け」
「はい」
しゅんっと眉毛が垂れ下がる。前は、そんなところも可愛いと思ってたのに。
「私たちは他人です。だから、分かり合えません、一生多分」
「なんでそんなこと言うの?」
「いいから聞いて」
「はい……」
「だから、思ったことすぐ言い合いましょう。傷つくと思います、辛いと思います。なので、何回喧嘩しても、最後は抱きしめあって好きの気持ちも伝えましょう」
伝えながら涙が出てくる。嫌だと言われてしまえばそれまでだ。今までだったら、私が我慢すればいいと思ってた。でも、それじゃあ変わらない。こうやって、またちくんとした爆弾が増えて行ってどんどん嫌いになってしまう。こんなに好きなのに。
「二人のルールってこと?」
「はい。私は、この先、付き合い続けて、のちのちは夫婦になりたい。家族になりたいです。だから少しでもわかりあって、少しでもお互いの意見をすり合わせて上手くやっていきたい」
ぐすんっと鼻を啜り上げながら、言い切れば抱きしめられて頭を撫でられる。
「うん、思ってることはあるんだろうなと思ってた。でも、沙織は言わないから我慢してるのも分かってた。俺も我慢してたこともあるし」
「はい」
「俺も、沙織とずっと付き合っていたいし、別れたくないと思ってる。いつか、家族にもなりたい。だから、きちんと毎回話し合おう」
「はい」
ずずっと鼻を啜りあげれば、二人して吹き出してしまう。
「それでいい?」
「はい」
「じゃあ、まず急に電話してきて笑い出すのは怖いからやめようね」
素直にそこは謝る。
「普通にホラーだからね」
「ごめんなさい」
もう一回強く抱きしめてから、カツキの顔をマジマジと見つめる。話すことに真剣になってたから気づかなかった。人間だ。
犬っぽいところは変わらないけど。ヘラヘラ笑ってる姿とか、しゅんとしたら眉毛が下がるところとか。でも、人間だ。
嬉しくなって強く抱きしめ直して、キスをする。
「これからは傷つけないように気をつけます」
「うん、私も溜め込まないようにする。言わなくても分かれよ、って思うのはやめる」
「うん、言って。傷ついても、別れないから」
ちゅっと鼻の頭にキスをされて、なんだかそう言うところも犬みたいだよな、と思ってしまった。
Fin
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