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生き物だからこそ
『最強の盲導犬』
『デジタルには欠陥がある』
そんな賛辞や混乱がネットやニュースにあふれた。
ボクとミツルはコタツに入りながら、ぼんやりとテレビ画面を見る。
熊襲撃事件の後、ボクたちはロボット盲導犬製作所に招かれた。猟友会に射殺された熊には、アキレス腱が犬によって切り裂かれた痕が残っていた。むろん、ボクの活躍によってだ。
ボクは警察署に犬の身でされた表彰された。
ボクのほほの傷は勲章になった。
ミツルはボクの活躍をロボット盲導犬製作所に伝えた。
熊撃退はロボット盲導犬が生き物の盲導犬に負けた事例だった。この事例は社会に波紋を広げた。
ロボット盲導犬協会を巻き込んだ話題なので広く社会問題になったようだ。
そのニュースは広く公開されている。
ロボット盲導犬には、熊に襲われた時にどういった反応と対応をすればいいのかがプログラムされていなかった。だからネット検索の一般論として、「目を合わせ、背中を向けずに後ずさってください」という紋切型のアドバイスしかできなかったのだ。
そもそも盲人には『目線を合わせる』こと自体ができない。にも関わらず、的外れのアドバイスをしたのだ。
ロボット盲導犬に一定の攻撃能力を付与するという案が出されたが、どのような事態でそれを行使するのかがはっきりとはしないため、提言が実行されるかは大きな議論となっている。またロボットには、人や動物に対して危害を加えないというプログラムが最優先されており、攻撃プログラムを作り、実行するということはエンジニアにとって大きな課題だという論評も流れた。
「お前が僕を身を挺して守ってくれたんだね。ありがとう」
ミツルはそう言って、ボクの頭をなでる。
ボクもミツルに、ロボットではなく制約の多い生身の盲導犬として選んでもらったことに感謝している。
この先AIやロボット技術はもっと進化するだろう。
それでも、生身のパートナーが必要とされる時は必ず来ると信じている。
完
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