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ボクはミツルを連れて、電車で数駅のスーパーマーケットに入った。手前の野菜売り場で、大根を並べていた若い店員がボクらを呼び止める。
店員は困り顔をして、
「お客さん、ペット同伴はちょっと」
と小さな声で、しかしはっきりとミツルに告げる。
この店員は見たことが無い。きっと新入社員なのだろう。
「あの、でもここ、盲導犬同伴アリだと」
ミツルが言い返す。
「え、あ、そうでしたっけ」
若い店員は黒い端末を取り出し、操作した。たぶん、業務マニュアルが入っているのだろう。
「えーと、うん。同伴アリですね。大変失礼をいたしました。最近はロボット盲導犬を連れる方が多くて。私リアルな盲導犬を見るの初めてなんですよ。ごゆっくり店内をごらんください」
店員は一割くらいとまどい顔で、野菜コーナーに戻っていった。
そう、この盲導犬業界、最近ではAIを搭載したロボット盲導犬に押されつつあるのだ。ロボット盲導犬は人工知能の進化にともない、飼い主と会話できる、地図アプリと連動して、最短ルートをはじき出せる、と機能が充実しているのだ。
加えてボクたちと違って長い訓練は必要とせず、最低限の機械学習で済む。またある動物保護団体は盲導犬は犬を酷使すると主張している。盲導犬への風当たりは日に日に強くなっている。盲導犬も普通の飼い犬も寿命に差はないという研究結果が出ているにも関わらず、保護団体は真実とはかけ離れた感情論で語るのだ。
店内に一匹、いや一機と呼んだ方が正しいだろう、ロボット盲導犬をつれた視覚障碍者がいる。
「キョウハ、ダイコン、ニンジン、ジャガイモ、カレールー、デスネ。フロアヲジュンニマワリマス」
青いメタルフレームのロボット盲導犬は、的確なコミュニケーションをとりながら店内を歩く。客たちが、「おお、頭いいな」と目を見開き、使用者に道をゆずる。
もうボクらの時代は終わったのだろうか。
そう思っていると、ミツルがポン、と頭に手をのせた。
「ナナ、頼りにしてるよ」
やさしく、そう言われた。
ボクの心はほっ、と温まった。
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