店内

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 肉、魚、青果。普段の巡回ルートを回る。  ボクは商品の香りをかぐことができる。肉は獣の、魚は青くさい、果物は柑橘系の酸っぱさや、熟れ具合を知ることができる。  ミツルは慣れた手つきで豚肉のこま切れを買い物かごに入れた。ボクはそれを見て、フン、と鼻を鳴らした。肉の熟成具合が違うよ、と言ったつもりだ。 「ああ、こっちだな」  ミツルはそれを受けて、今かごに入れたこま切れを棚に戻し、2割引きのシールが貼られた商品と入れ替えた。ボクには肉の鮮度が分かるのだ。ミツルは購入してからすぐに調理するから、安売りの品で十分だ。 「バナナも買おうかな」  ミツルの手が、果物に触れる。何度か表面を撫でまわす。 「お客様、それ、桃ですから」  横から店員の叱責ともとれる鋭い声が響いた。 「す、すみません。よく分からなかったものですから」  ミツルが頭を下げる。  桃は触ったところから傷み、腐れやすくなる。注意は店員として当然だろう。 「あの、ではこのパック買い取ります」  ミツルが失敗した、という表情をした。 「ああ、まあ、無理に買い取らなくてもいいんですけどね」  店員も、まさか買い取らせるために注意したのでは無かったのだろう。お客様対応を誤ったという顔をした。  ミツルは桃のパックを買い物かごに入れた。  ミツルは母親と二人暮らしだ。母親の年金とミツルの障碍年金で暮らしている。決して裕福というわけではない。母親が死去したら生活保護申請をする予定だと聞いたことがある。  890円の桃のパックは、ミツルにとってかなり痛い出費だ。それでもミツルは仕方がないと顔を振って、購入を決める。  ロボット盲導犬が近づいてきた。  四足歩行で、大きさはゴールデンレトリバーのボクとそう変わらない。頭にとりつけたアンテナのような突起がチカチカ光る。 「ゴ主人様、ヒトガイマス。ヨケテ、トオリマス」  使用者と周囲に届くような中くらいの声を発し、ボクの横をすり抜けていった。ロボットの対応は適切だ。ボクの仕事は、かなりの精神力を必要とする。無視されるのが一番助かるのだ。
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