電車にて

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電車にて

 買い物の帰り道、ミツルは駅のホームに立った。ボクにとっては一番緊張するところだ。ホームと線路の間には、黄色い視覚障碍者用のブロックがあるけれど、そのほとんどが無視されている。  スマホでゲームに興じるピアスをつけた男性。参考書を片手に持ち、友達と談笑する高校生たち。平気でブロックを踏みつけている。  それは障碍者に必要なものなんです。ボクに言葉があれば、どいて下さいそれは弱者のためのものなんです。と叫びたいところだ。  いくら技術が発達しても、マイノリティに配慮する人間は増えない。道徳心の向上は、技術革新よりも遅いなと感じる。  ホームにはロボット盲導犬を連れた障碍者が数人いた。こんな田舎にも盲導犬がいきわたったことには関心する。ロボット盲導犬はホームから、ちょうど50センチ離れたところに座っている。そのようにプログラムされているのだろう。  カタン、コトン、と音と振動がして、電車がホームに着いた。  ボクはミツルが足を踏み外さないよう注意しながら乗車する。  ボクはゆっくりと進み、優先席にミツルが座ったのを確認してから床にうずくまった。  優先席もやはり理解のない、健常者が座ってくる。ボクはゆっくり、だが急いでミツルを席に誘導しなければならないのだ。  晩秋の電車の床は、そんなに寒くは無かった。隣にはロボット盲導犬。鈍色を放つ金属の鼻が呼気を吐き出す。ボクが認識されたようだ。それきり、ロボット盲導犬は何もせず地面に座った。  ボクたちが住んでいる田舎の町は、寂れた商店街しかない。ドッグフードなどの特殊な買い物は、先ほどの大型スーパーに頼るしかないのだ。
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