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襲撃
ロボット盲導犬を連れたおじさんと、ボクとミツルは帰路を歩く。
一車線しかない道路のわきは太い木と一メートルは優に超える緑のやぶだ。
紅葉が色づいている。
「ハル、この辺りの木は?」
おじさんがロボット盲導犬に質問する。
「ケンサクチュウ。90パーセントノ確度で、ブナです」
「そうか。ありがとう」
ロボットにはインターネット接続機能があるんだよな。
ボクは自分の力不足に落胆した。
大きな柿の木がある曲がり角に達する。一番緑が濃い場所だ。ここを過ぎれば家まで直進するだけ。ミツルならそれこそ目をつぶなってでも行けるだろう。
熟れた柿が橙色の星のように枝にぶら下がっている。
カサリ、とやぶが揺れた。
ボクはやぶを見る。臭いをかぐ。
草の香り、柿の甘い香り、そこに、微かに獣臭がする。
ボクは足を止め、身構えた。
ミツルはいきなりボクに止められ、
「どうしたんだい」と心配そうな声をかけた。
黒い物体が3体、やぶの中から姿を現す。大きな母熊と、小さな子熊2体だ。子熊は道を横切り、一目散に柿の木に登る。
まずい。
ボクの本能が告げていた。子熊を安全なところへ退避させたということは、この母熊は戦う気だ。
大きな黒い毛皮と、鋭い牙と爪を持った猛獣が向かってくる。
「クマ、デス。メセンヲ、」
そこまで聞いて、おじさんが背中を向けて反対方向に走り出した。最悪の選択だ。熊は逃げるものを追いかける習性がある。
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