3-6. ルーシーの意味深

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「ところで、今日はルーシーに会いに来たって?」 「あ、そうでした。後継者任務が終わってからずっとお屋敷の中にいるって聞いて……大丈夫ですか?」 「ああ……その……大丈夫と言えば大丈夫だが……大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃないというか……」  雲雀の表情は曇り、言葉も言い淀む。 「……そうか、君はまだルーシーに会ってなかったね」  トアが心配そうに見つめると、雲雀は無理やり笑顔を作った。 「……地下の研究室にいるから行っておいで」 ***  朱雀邸の地下に足を踏み入れると、先ほどまでとは打って変わって、怪しい雰囲気を感じる。同じ屋敷内とは思えない雰囲気に、若干気後れする。  執事に案内されたトアは地下を進んだ先にある扉をノックした。 「ルーシー? 入ってもいい?」  少しの間を置いて「い~よ~」となんとも気の抜けた声が聞こえ、トアは恐る恐る扉を開けた。  思えばこの研究室へ来るのは初めてである。入ってすぐに、トアは周囲を見渡した。  部屋の壁中に並べられた本棚には難しそうな本がびっしり並べられている。  フレスコやビーカーが机の上には置かれており、何かの実験の材料にでも使われるのだろうか、周辺は色々なものが散乱していた。  地下室のためもちろん窓はなく、部屋は全体的に薄暗い。  いかにも研究室らしい雰囲気の部屋だが、とにかく…… 「き……ったない……」  トアはために溜めて感想を口にした。するとむくりと、目の前のソファー(もちろん散らかっている)から一つの真っ黒な影が起き上がった。 「きゃああ! 出たっ!!!」 「出たって……お化けじゃないんだから~。……何しに来たの?」  黒い影だと思ったものはルーシーだった。髪の長さ、メガネ、緩んだ口元……どれもルーシーであることは確かだが、トアは開いた口が塞がらない。本当にお化けを見ているかのような表情だ。 「嘘……ルーシー……なの?」 「そだよ~超絶イケメン☆ ルーシー様さっ♪」  ノリの軽さもルーシーであることは間違いない。しかし、トアはまだ信じられなかった。  なぜなら彼女の知っているルーシーは、彼の父親である雲雀と同じ、燃えるような赤髪をしているからだ。  しかし目の前のルーシーを名乗る人物は、真っ黒な髪色をしている。地上では珍しくない髪色だったが、こんなに黒い髪色をした人に、この世界で出会ったことがない。  みんなが口を濁した理由はこれだったのか。 b2d91c3d-3a9c-429d-9789-82074226df36
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