5-6. 手記

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5-6. 手記

 翌朝の診察が終わったと同時に、部屋の扉が大きな音を立てて開いた。 「息子よ! 死の淵からよみがえったか!」  任務でずっと不在にしていたリアンの父親エンゾが帰ってきたようだ。大袈裟すぎるジェスチャーでリアンを抱きしめる。  普段こういう愛情表現をしない父親だ。リアンは一瞬、別人かと思って思わずよけぞった。  トアも苦笑いしながらエンゾを止めに入る。 「エンゾ。まだ本調子じゃないから、あんまりリアンを苦しめないであげて(色んな意味で)」 「お前、トア様に寝ずの看病をさせやがって……ったく普段の稽古ができてないんだよ」  ばしっと背中をたたきそうになったが、トアによってそれも止められた。  椅子を持ち出し、エンゾはリアンの横に座る。じっと息子の顔を見つめ、にっと笑うと頭をがしがしと撫でた。 「まぁ思ったより元気そうで安心したよ。さっさと完全復帰しろよ」  くしゃくしゃになった髪の毛を整え、リアンはエンゾを見た。 「父上」 「あん? どうした」 「……マーリーという女性をご存じですか」  エンゾが固まる。 「…………どこでその名前を聞いた」 「俺の質問に答えてください」  エンゾは大きくため息をつく。ちっと舌打ちをして、何度かため息をついた後で言った。 「……なんで、今……知ってるさ。……お前の母親だ」 「どうして、教えてくれなかったんですか」 「……お前を捨てた母親のことを知りたいのか?」 「捨てた?」 「……俺たちの付き合いは短かった。でもまぁ子どもができたって言うから結婚を考えたが、結局その後すぐあいつは姿を消した。しばらくして生まれたばかりのお前をこっちに送りつけ、本人からは一切連絡なしだ。お前を連れてきた男にマーリーのことを聞いたが、自分のところにいると言っただけだった。大方そいつとよろしくやるためにお前がいらなくなったんだろう。……そんな女のことを母親だって説明する必要はないと思った。嫌だろ? 母親が自分を捨てただなんて」  どうやらエンゾの中でマーリーは悪者になっているらしい。
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