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リアンはマーリーに関する真実を告げるべきか悩んだが、エンゾには知っていてもらいたい。
「……彼女は妊娠中に捕らえられ、人体実験の被験者とされ、俺を産んだ後にその実験のため亡くなったと聞きました。俺を父上の元へ送ったのは、彼女と同じく実験に使われることを避けるためだったと」
「誰がそんなこと……」
そこでエンゾははっとした。
「お前……まさかあの羽のある男に会ったのか……? そうなんだろ!」
ガタッと立ち上がり、リアンの肩を強く掴み揺さぶる。すかさずトアが彼を制止した。
「ちょ、ちょっとエンゾ! 落ち着いて! あんまり強く揺らさないで!」
エンゾは我に返って「悪ぃ」とリアンに謝り、椅子に座り頭を抱える。
「はぁ……実験、か……なんとなくそんな予感はしてた。一応俺だって調べたさ。マーリーが諸下都の人体実験施設にいることは突き止めた。まぁ、分かったのはそれだけだけどな。男の真意も分からなかったし、マーリーがどうしていたかも分からなかった。そのうちに諸下都はなくなっちまったし……俺も若かったし裏切られた気持ちもあったからそれ以上調べようとしなかった。お前もいたしな」
あの頃のエンゾが気にすべきは、姿を消した女の存在ではなく、目の前の息子の存在だった。
「父上。これを……」
リアンはマーリーの手記を差し出した。
「なんだ、これ?」
「マーリーが残した手記です」
「……死んだ女の書いた日記を読んだのか? 趣味悪いぞ」
「俺も読む気はありませんでしたが……彼女がいたから俺が今ここにいるわけで……どんな人だったのか知ってもいいかと思いました」
リアンは昨日の夜、一人でこの手記を読んだ。一般的な日記だった。諸下都の人体実験施設にいたというのに、辛い話は一切なかった。
リアンを妊娠している時の気づきや未来への明るい希望。最後の方ではリアンが生まれた後を想定した彼へのメッセージも書かれていた。
結欧は「後悔の元になる」と言っていたが、確かに彼にとってはそうだったかもしれない(エンゾへの恋心も多く綴られていた)。しかしリアンにとっては、マーリーの手記のおかげで一度も知らなかった母の愛を知ることができたのだ。
「父上のことも書かれてましたよ」
「俺のこと?」
「はい。彼女の中では随分美化されているようですが」
「なんだそれ」
「一度読んでみてもいいと思いますよ。恨みはないみたいですから」
リアンはエンゾをからかうように笑って言った。
どうぞと、手記をさらに差し出す。
「……」
エンゾは何も言わずに手記を受け取ると、そのまま部屋を出ていった。
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