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リアンが手記を持っていた経緯を、前日にトアは聞いていた。彼に尋ねる。
「……リアン、渡して良かったの?」
「誤解されたままじゃマーリーも浮かばれないだろ」
「それはそうかもしれないけど、結欧って方はリアンに持っててもらいたかったんじゃない?」
「どうかな……父上がいらないって言えば俺が持っておくけど……まぁ、手記は手記だよ。誰が持ってもいいじゃない。それに俺は……」
リアンはトアの目を見て続けた。
「俺を生んでくれた女性に感謝はするけど、それより今目の前にいる女性を大切にしたい」
昨日目が覚めてからなんだかんだ、トアと二人の時間を取れなかった。やっと落ち着いて彼女に向き合える。
求めてくるような視線にトアはたじろいだ。すっかり忘れていたが、リアンのこの視線に狙われているのだった。
頬に伸びるリアンの手から逃れようとしたが間に合わず、ぐいっと引っ張られてしまった。
「リ、リアン……まだ、大人しくしてないと」
「君にキスさせて欲しい」
「だっだからここじゃ駄目っ……」
「ここじゃなかったらいい?」
「そっそういう問題じゃ……」
本当は駄目じゃない、そう思ってしまった自分にトアは顔が熱くなるのを感じた。
自覚してしまうとは恐ろしい。しかし頭では分かっていても行動が付いていかないというのはこういう状況なのだろう。
リアンに会いたかったくせに、無事帰ってきてくれて、こうして目を覚ましてくれて嬉しいくせに、こんな直球すぎる愛情に向き合って素直に頷くにはまだ時間がかかりそうだ。
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