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「……本人はとっくに亡くなっているそうだ。この手記は遺品らしい。おかしいもんだよなぁ……ホント、今更リアンにマーリーのことを知られるなんて……」
「リアンに話したんですか?」
「話したっていうか……まぁ、どういういたずらか、知っちまったみたいだ。しかも俺が思ってたのとは違う話をな」
エンゾはアンナに今朝のリアンとの話を伝えた。
リアンの母親が実は悪い女性ではなかったと知って安心した反面、アンナは少し複雑な心境にもなった。
「…………その、手記には何が?」
立ち入ったことを聞くようだが、エンゾのことは本当によく知っているアンナだ。これくらい聞いてもいいだろう。
「……大したことはない。ただの日記だ。まぁ、俺がいかにかっこいい男かってことがつらつら書かれてた」
「なんですかそれ……相変わらず自意識過剰ですね」
呆れてそう言うアンナに、エンゾはスケッチが描かれたページを見せた。美男子が描かれている。『記憶の中のエンゾ様』というタイトルにまたもアンナは吹き出した。
「ちょっと、これは……誰ですか? 美化しすぎにも程があるでしょう?」
「いやいや俺の若い頃はこんなんだっただろ?」
アンナは絵と目の前の本人を見比べる。
「……あなたが十代の頃から知ってますけど、こんな美男子だった時代は知りませんね」
「はは、相変わらず言うなぁ」
あまりに怪訝な顔をするアンナにエンゾは笑ったが、次の彼女の一言には固まってしまった。
「絵より本物の方がよっぽど素敵ですよ」
「あ? ……え?」
柄にもなく照れるエンゾは意外と可愛いものだ。アンナは余裕たっぷりに笑った。
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