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そんなトアに出会った瞬間、心を奪われた少年がここに一人いる。
「この子が……王女様?」
当時10歳の少年リアンである。
利発そうな青い目を輝かせて、リアンは生まれたばかりの小さな、しかし彼にとってとても大きな存在を見つめた。
「は、はじめまして……」
緊張気味に挨拶するリアンに、周囲の大人は微笑ましく見守った。
生まれたばかりの赤ん坊に『初めまして』だ。可愛らしいものである。
「あ、あの……触っても……いいですか?」
彼のわくわくした表情から周囲の大人が読み取ったのは、さながら妹の誕生を待ちわびていたお兄ちゃん、といったところか。
トアに触れることを許可されたリアンは、そっと手を伸ばした。赤ん坊のとても小さな手に触れる。ふわふわとした柔らかい感触の手だ。
ふいに開いたその手のひらに指を近づけると、きゅっとリアンの指を握ってきた。
それは赤ん坊にとっては自然な反応だっただろうが、リアンが感じたその手の力強さは彼を圧倒した。
(こんなに小さいのに……どこにこれだけの力があるんだろう)
「トーランス……様」
トアの名前を呼ぶと、心なしかリアンの指を握る手の力が強くなったように感じた。
(なんだろう……この感じ……? なんか、静電気みたいな、びりびりするような……)
その時リアンが次第に真剣な眼差しに変わる様子には誰も気がつかなかった。
(この子に……ううん、この方に、俺は仕えていくんだ)
(父上が言ってたことは、こういうことだったんだ)
***
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