オファー

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「こいつ今引っ張りだこでね、なかなか免許取りに行くのも難しいんだ。今は僕が送迎してるんだけど……どうかな?引き受けてくれると助かるんだけど」 ふわふわとした微笑を向けられて、う、と詰まる。 小松の頼みだ、実を言えば淡い恋心を芽生えさせ始めていた心陽は彼の頼みを断る事を躊躇してしまっていた。 「こいつに余裕が出来て、免許を取れるまでで構わないから……どうかなぁ?」 (引き受けてしまった) それでは明日からと、小松に契約書にサインまで求められ。 心陽はすごすごと自室に戻ってきた。 勿論、新しい職を見つけられたのは有難い。 有難いのだけれど。 心陽は本当に人との関わりを拗らせているのだ。 自分でもいけない、このままじゃ駄目だと分かっているのに。 話す事が頭の中にあっても、主張が出来ないのだ、 商業高校を出て、初めは事務員として働いていたのだけれど。 その性格のせいでまわりと馴染めずに、二年ほどで工場に転職した。 でもそこでも心陽の無口さと、NOと言えない性質が激務を押付けられる原因になった。 身体と心を病みかけて、やっとの事で退職願を出して……今は無職。 怖いと思うのだ。 叱られる事、否定される事。 それを常に気にして、ついには自分の意見すら正解なのか分からなくなっていく。 変わりたいと思う。 これまで関わって来た同世代の女性の様に、笑えたら。 そう思う。 ……運転手だもの、とりあえず黙って運転したらいいんだから。 いつまでもこのままで居たくない。 まだそう思えているから。 心陽はキュッと唇を噛んで頷く。 頑張ってみようと思った。 鹿屋はちょっと怖い感じがしたけれど。 別に秘書ってわけでも、アシスタントでも無い。 ただ運転して送迎するだけだ。 うん、出来るかもしれない。 本当は怖くて堪らないけれど。 心陽はそう自分に言い聞かせながら、翌日の出勤の為に早めにベッドに潜り込んで目を閉じた。
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