織田マリア

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織田マリア

 ただでさえ真っ赤なオープンカーは目立って仕方がない。しかも運転しているのは美人女優のような織田マリアだ。  長く流麗な黒髪が風になびいた。良い意味でも通行人からは注目の的だ。 「あのォ、マリアさん。どこへ行くんですか」  おずおずとボクは後部座席から声を掛けた。道行く人たちが興味本位にボクらを見ていて恥ずかしい。ショパンは黙ったまま助手席でうつ向いていた。 「フフゥン、今回の事件現場よ。現場百回って言うでしょ」  織田マリアは嬉しそうに笑みを浮かべた。美少年のショパンを助手席に乗せドライブでも愉しんでいるようだ。こっちは(たま)ったものではない。 「あのォ、恥ずかしいですから(ホロ)をしてくださいよ」  どうしてもボクは通行人の目が気になって仕方がない。 「フフゥン、だって、私ってちょっと地味でしょ。車くらい派手じゃないと」  織田マリアは長い黒髪をなびかせ微笑んだ。 「はァ、どこが地味なんですか」  彼女は警視庁きっての美人警部補と言われていた。圧倒的に優美でゴージャスだ。あまりにも派手なので敬遠されていた。 「実はねェ。聞いてよ。ショパン」  織田マリアは助手席の美少年を猫可愛がりしながら微笑んだ。  長くなりそうなので掻い摘んで説明しよう。  彼女の話しでは一週間前の昼過ぎに老婦人、河西玲子がビルとビルの間の小さな路地で頭を怪我するという事件が起きたと言う。  何者かがコンクリートの破片で殴打したようだ。ビルはどちらも屋上へは上がれないようになっていた。防犯カメラにも映ってないので誰かが屋上からモノを投げつけることは出来ない。  さらにビルの途中から何かを落とす窓もない。  しかも犯行時刻前後の防犯カメラを解析したところ容疑者らしき者の姿は見つかっていない。  白昼堂々、傷害事件が起きたと言うのに未だに容疑者らしきモノは見つかっていないと言うのだ。  だいいち被害者の老婦人、河西玲子は穏やかで優しいと評判だ。他人から怨まれるような女性ではない。  ではいったい誰が真犯人だと言うのだろう。通り魔的な犯行なのだろうか。  その時、不意にスマホの着信バイブが響いた。
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