図書館長シオリ

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図書館長シオリ

「そこそこ魔力が吸収できたわね。まあ、リチャードの存在価値なんてこれぐらいかしら」 冷たくシルヴィアは、そう言うとくるりと大鎌を回転させる。するとどうだろうか、大鎌は消えてしまった。 「さすがねリード」 シルヴィアは僕の手を握る。 「私が見込んだ男だわ」 ふふっとかわいらしい笑顔をシルヴィアは浮かべる。 「あいつが油断して自滅しただけだよ」 僕はシルヴィアの笑顔にそう答える。 (ストーン)(クラス)の人間がなぜこの伝統あるギルバート魔法学園に入学できたのか。 それを考える想像力があれば、このリチャードという男は死なずにすんだのに。 パチパチ……。 拍手の音がする。 その音の方向に視線を送ると黒いローブを着た人物がいた。 その人物はフードをおろす。 細い目の女性であった。豊かな黒髪が印象的である。 「母さん……」 その人物は僕の母親であるシオリ・ブックエンドであった。 「あらっ、お母様……」 シルヴィアはスカートの両端をつかみ、お辞儀する。 「シルヴィア、お久し振りね」 ふふっと母さんは微笑を浮かべる。 「魔本の一つ三銃士を使いこなせるようになったのね」 母さんの声はどこか嬉しそうだ。 「ああっそうだよ、母さん。三銃士に真田十勇士、里見八犬伝も読みこんで使えるようになったよ」 僕の言葉を聞くと母さんは細い目を少しだけ見開いた。 「まあ、お父様が生きていたら喜んでくれたでしょうね」 母さんはそう言った。 母さんが喜んでくれて何よりだ。 僕が使う魔本と呼ばれるものはすべて祖父であるジロウ・ブックエンドが書き上げたものだ。祖父が書き上げた魔本の英雄たちを僕はこの世界に呼び出すことができる。 この召喚術が僕をギルバート魔法学園に入学することを許されることになった特別の技術である。 魔力がなくてもこのギルバート魔法学園に入学する方法がいくつかある。 それは魔法に代わるまたは魔法と同等の技術を持つものである。 「お母様、リードの戦いは見事なものでしたわ」 我がことのようにシルヴィアが喜んでくれる。 「そうね、とてもすばらしいわ。でも、やりすぎたわね」 服だけになったリチャードを見て、母さんは言った。 確かにやりすぎたかも知れない。 リチャードのような貴族が入学早々に死んだとなれば、それはそれで問題である。 「まあ、いいわ。後始末は私にまかせなさい。リード、これからは手加減も覚えなさい」 母さんは僕に注意する。 「わかったよ、母さん」 僕は母さんに約束する。 そうだね、どんなにむかついても殺してしまうのは良くないな。これは反省しなくては。 「それでね、私もこのギルバート魔法学園で働くことになったのよ」 と母さんは言った。 「お話はうかがっております。ギルバート魔法学園の図書館長に就任されたとか」 シルヴィアがそう捕捉する。 「そうなのよ、この春から私は図書館長に任命されたのよ。だからリード、これからは私のことを先生って呼びなさい」 少女のようにウインクし、母さんは言った。 「わかったよ、母さん。いやシオリ先生」 僕が答えると母さんは頭をくちゃくちゃと撫でた。もうっ、いつまでも母さんは子供扱いするんだから。
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