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学園生活の始まり
リチャード・レッドフォックスは表向きは病気のため休学扱いとなった。数日後には病状が悪化し、療養地でそのまま亡くなったということになるという。
決闘の翌日、彼は書類上はまだ生きていることになっていると母さんは言っていた。
石級の僕に自ら決闘を挑み、返り討ちになったとレッドフォックス家は言えないようだ。
自業自得だと僕は思った。
同級生が新学期早々いなくなったが、学園の生徒たちはあまり気にしていないようだ。
どうやらこのギルバート魔法学園では学生が突然いなくなるなんてのは、日常茶飯事のようだ。
そう、普通の学生生活を送りたければ、一般の学園なり士官学校に通えばいいのだ。
ここは魔術師を育成するための機関の一つであるギルバート魔法学園なのだ。
シルヴィアと再会した翌日から、授業が始まる。このギルバート魔法学園は全寮制で、約三年間僕たちはここで学び、一流の魔術師を目指すことになる。魔法至上主義のこの国では魔術師になることが、あらゆる分野における出世の近道である。
僕は正直いうと権力とか地位、名誉はそんなに興味はない。
興味があるのはシルヴィアのことだけだ。
辺境男爵家の一人息子である僕がシルヴィアと結婚するには、最低でもこのギルバート魔法学園を上位の成績で卒業することである。
僕たちの学年は約百人ほどだ。
当然ながらシルヴィアはそのトップにいる。
シルヴィアの横に並ぶには卒業時に選ばれる七人の星騎士に入らなければいけないと僕は考える。
ギルバートの星騎士といえば、このミネルヴァ王国においては一目置かれる存在だからだ。魔力がほぼ無い僕がこの星騎士に選ばれるにはどうすべきか?
それが僕のこの学園での課題である。
「五百年前に勇者ミネルヴァは神竜王の加護のもと、魔王ジヴンジェブルを打ち倒したのです。そしてミネルヴァはこの神竜王国の初代女王となったのです」
王国史と魔法史の教授を歴任するフィリップ先生が教科書を読む。
それは子供でも知っている建国の歴史であった。
「シルヴィアさん、ミネルヴァ王国の前の王朝はご存知?」
フィリップ先生がシルヴィアに質問する。
「はい、聖賢王ジャムルが治めていたパール王国です。アルンアーダ帝国を構成する国の一つでした。ミネルヴァ王国建国後は帝国の庇護をはなれ、現在我が国は独立をはたしています」
シルヴィアは起立し、答える。
シルヴィアの立ち姿は見とれるほど美しい。
それはもう呼吸すらわすれるほどだ。
「すばらしいです、シルヴィア」
フィリップ先生が大きく頷く。
初代国王ミネルヴァが魔王と戦ったときの仲間の一人がこの学園の創設者であるジョゼフ・ギルバートだ。
僕はこの王国史をはじめ、魔道薬学や魔法生物学などのいわゆる座学系は得意であった。
これらの筆記試験の成績はシルヴィアには及ばないまでも、学年の上位にはいる自信はある。
問題は飛翔術、変身術、防衛魔術などの実技系だ。
これらは魔法力が物を言う。
石級の魔力しかない僕がこれらの実技系で好成績を治めるのは至難の技だ。
午前の授業が終わり、僕はシルヴィアの誘われ食堂にいた。
こうしてシルヴィアと昼食をともにできるのは無上の喜びだ。
周囲の皆がこの絶世美少女を見ている。
そして次に僕を見る。
ぱっとしない外見の僕が彼女のとなりにいることにあるものは不思議がり、あるものは憤慨しているようだ。
その視線は誰もがわかるほど明らかであった。あのリチャード・レッドフォックスのように直接言ってくるものはいないが。
もしかすると昨夜の決闘のことが、噂で広まっているのかもしれない。
人の口には扉はたてられないからね。
「ねえ、リード」
チキンの香草焼きをきれいに切り分け、シルヴィアはそれを一口食べる。食べる姿も優雅だ。さすがは公爵令嬢といったところか。
僕はちらりとシルヴィアの青い瞳をみる。その瞳はまるで宝石のようだ。
「あなた私の騎士にならない?」
シルヴィアは僕にきく。
ギルバート魔法学園の成績上位四名にはある特権が与えられる。それは騎士を一人任命し、公私の行動を共にするというものである。この学園には選ばれたものしか入ることができないエリアがいくつかあり、騎士になればそこにはいることもできる。
それに星騎士に選ばれるのは成績上位四名とその騎士というのが、通例である。
「うん、なりたい」
僕は正直にいう。
シルヴィアの騎士になればこの学園にいる三年間は常に彼女と行動をともにできる。
「うふふっ、正直ね。話が早いわ。ケネス・ギルバート校長には私から話を通しておくわ」
シルヴィアはなんでもないことのように言う。
しかしこれは前代未聞の出来事であった。
それは一学年総代であり金剛石級のシルヴィアがたかだか石級の僕を騎士にしたのだから。
それから数日後、僕たちはケネス・ギルバート校長に呼び出された。
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