ケネス・ギルバート校長の指令

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ケネス・ギルバート校長の指令

ケネス・ギルバート校長に会うのは三度目であった。 一度目は入学試験のとき、二度目は入学式、三度目が今回だ。 「シルヴィア・バハムート、リード・ブックエンド参りました」 校長室のドアをノックし、シルヴィアがそう名乗る。 そうするとすぐに入りたまえという低い男性の声がした。 「それでは失礼します」 そう言い、シルヴィアはドアを開け、入室する。僕はその後ろに続く。 部屋の奥にいるのが、ケネス・ギルバート校長だ。銀色の髪をオールバックにし、眼鏡をかけている。高い鼻が印象的だ。どこからどうみても学者という雰囲気を持っている。年齢は四十代半ばぐらいだろう。母さんより少し年上だと思う。 広い校長室にはすでに五名の男女がいた。 左奥に背の高い女性がいる。 シーザー・ベルモンドという名でギルバート魔法学園の剣術師範をつとめている。 ミネルヴァ王国でも屈指の剣豪として知られている。 右側には二組の男女がいた。 男性たちはそれぞれオスカー・グリンラクーンとウォルフ・グリンラクーンという名で僕たちよりも一つ上の二年生だ。 オスカーが二年生総代でウォルフが次席であった。そしてあのリチャード・レッドフォックスと同じ五侯爵家の者だ。 女性たちはそれぞれナターシャ・ベイオウルフ、サーシャ・ベイオウルフといった。 犬の耳が頭にあるので彼女らはいわゆる獣人族だろう。 「あの子達は双子なのよ」 シルヴィアが教えてくれた。 確かにナターシャとサーシャの顔は瓜二つだ。 「ポニーテールで目の下にほくろがあるのがナターシャでツインテールで唇の下にほくろがあるのがサーシャよ」 シルヴィアが二人の違いを教えてくれた。 この双子の姉妹はシルヴィアの足元には届くぐらいには美少女であった。ぷりぷりとした肉付きのいい胸とお尻が魅力的だ。まあシルヴィアに比べたら劣ると思われる。 「オスカーの騎士がナターシャでウォルフの騎士がサーシャなのよ」 さらにシルヴィアが補足説明してくれた。 右側はオスカーたちで埋まっていたので、僕たちはシーザー先生の横に並んだ。 「良く来てくれた」 とケネス・ギルバート校長が出迎えの言葉をかけてくれた。 「ではさっそく本題に入ろうか。アルンアーダ帝国の第十三皇女アナスタシア殿下が近々このミネルヴァ王国を来訪される。そしてこのギルバート魔法学園を表敬訪問されるのだ。その時の応接係兼警護を君たちにまかせたたい」 ケネス・ギルバート校長は左右にいる僕たちを見て、そう言った。 「アナスタシア殿下は今年で十六歳になられる。年齢の近いものをとの先方の希望で君たちを選んだ」 低く、良く響く声でケネス・ギルバート校長は言う。 「皇女殿下の護衛か、私らにうってつけだね」 ポニーテールのケモ耳娘が言う。この子がナターシャか。 「でも一人場違いな子がいない?」 ツインテールのケモ耳娘が僕をにらんで言う。こいつがサーシャか。 「控えなさい、サーシャ」 オスカーがそうサーシャをたしなめる。 彼は僕を見もしない。眼中にないといったところか。 シルヴィアの顔を見ると唇をかんで、サーシャをにらんでいた。 にらまれたサーシャは何処吹く風といった顔をしている。 嫌な空気だ。 一触即発というのになりかねない。 「魔法力の総量が魔術師の実力を決めるものではない。サーシャ・ベイオウルフ、課外授業を受けたければいつでも相手をしてやるぞ」 ぎろりとシーザー先生はサーシャに視線をおくる。 確かシーザー先生の魔力レベルは(アイアン)だったはずだ。 そのシーザー先生がこのギルバート魔法学園で剣術師範をつとめているということは、彼女の剣術の実力は図り知れる。 シーザー先生の言葉を聞き、サーシャは肩をすくめてウォルフの背に隠れる。 ウォルフはやれやれとため息をついた。 「すまないな、リード・ブックエンド君。かのシルヴィア・バハムートが認めたのなら君はここにいるのに十分だろう。これから、よろしくな」 つくり笑顔でウォルフは言う。 もしかすると彼は調整能力というのがあるのかもしれない。あくまでも表面上の話ではあると思うが。 彼らと親友になるつもりはないので、表面上だけで十分だ。 「よろしくお願いします、先輩がた」 僕は会釈する。 あのリチャード・レッドフォックスのようにあからさまな敵意をむけられないかぎり、敵対する必要は無いだろう。僕はこの学園に敵をつくりにきたのではない。 翌日の朝、シーザー先生を筆頭に僕たち学生六人はアナスタシア皇女殿下を出迎えるために国境の街ハーレンに向かった。
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