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ギルバート魔術学園
ギルバート魔術学園の門戸はすべての者に開かれている。
それがギルバート魔術学園創始者のジョゼフ・ギルバートの遺言であり、学園の方針であった。十五歳の春、僕はこの魔法学園に入学した。
その校風と方針があるため、魔力がほとんどない僕でもギルバート魔術学園に入学することができのだ。
魔力がゼロ、またはほとんどないものを石と呼ぶ。
僕がすむこの世界は魔力の総量によって明確に序列が決まり、身分がきまり、人生が決まる。
魔力量の少ないものから下から順に石、鉄、白銀、翡翠、紅玉、蒼玉、金剛石とされている。
それは入学式翌日の出来事であった。
「リード、リードじゃないの?」
僕のことを呼ぶ人物がいる。
その人は控えめにいって絶世の美少女であった。
銀色の髪に青い瞳、きめ細い白い肌にととのった顔立ちと美少女の条件をすべてかねそろえている。きっと美の女神でもあるファルナがそのもてる技術すべてを彼女につぎこんで作ったに違いない。それにスタイルもすばらしい。出るべきところははっきりと出ていて、ひっこむべきところはひきしまっている。
「ああっシルヴィア、久しぶりだね」
僕はしぼりだすように声をだす。
僕ははっきりいって緊張している。
それが魔力をほとんどもたない僕がこのギルバート魔術学園に入学した目的がまさに目の前にいるからだ。
僕の目の前にいる彼女の名前をシルヴィア・バハムートという。この国の四大公爵家の令嬢であり、魔力の序列は金剛石であった。
「あなたもこの学園にはいったのね」
にこやかに美しい笑みを浮かべて、シルヴィアは言った。
「ああっそうなんだ」
僕は答える。
「あなたと一緒に学園生活がおくれるなんてうれしいわ」
シルヴィアは笑みをたやさず、そういった。
はっきり言おう、僕はシルヴィアのことが好きだ。彼女のことを寝ても覚めても考えているほどにはシルヴィアのことが好きだ。
辺境の貧乏男爵家の一人息子が王位継承権をも持つ公爵令嬢のことを好きだなんて身分違いが甚だしいがである。
三年前に王都の王立図書館で偶然彼女に出会ってからずっと僕はシルヴィアのことが好きだった。
「シルヴィア様、このものは誰ですか?」
僕たちの間に誰かが口を挟む。
背の高い、金髪の美男子であった。
髪をいじりながら、僕のことを見下している。
「このかたは私の幼なじみみたいなものかな。名前をリード・ブックエンドというのよ」
天使のようなほほえみを絶やさず、シルヴィアは僕のことを金髪の優男に紹介する。
「ほう、なんだ石ころか」
金髪優男は僕を見下しながら、そういった。やつのほうが背が高いから自然とそのようになるのだが、どうやら意識的にそうやっているようにも見える。
「リチャード、そのような言い方失礼よ」
人差し指をたて、シルヴィアはそうたしなめる。
「ですがシルヴィア様、ご学友をえらぶべきかと……」
リチャードと呼ばれた男は視線を僕から外し、そういった。
「あらっ、友達を選べって言うなら私はこのリードを選ぶわ。リチャードは他の友だちと仲良くするといいわ。ねえっリード、昔みたいにまたお話きかせてよ。そうね昔きかせてもらった二十の顔を持つ怪盗のお話なんかどうかしら」
シルヴィアはリチャードのことなど目もくれず、僕の手をとり、そういった。
「ああっ、いいよ。僕もずっと君と話したかったんだよ」
これはもう正直な気持ちであった。
僕は君とわかれてからずっと君のことを考えて、思っていたんだよ。
「あらっ私もそうなのよ。この学園に入ってよかったわ。お父様は外国の魔法学校にいれようとしていたみたいだけどね。そうね食堂にでも行きましょうか。三年ぶりの再会を祝してね」
可愛らしいウインクをし、シルヴィアはそういった。
彼女の行動はいちいちかわいい。
そのすべてがかわいくて、美しいのだ。
「シルヴィア様、このような身分の低い者と行動をともにするなど御身がけがれます」
なおもリチャードがシルヴィアのことを制止しようとする。
この言葉を聞き、シルヴィアの形のいい眉が吊り上がる。
「リチャード・レッドフォックス、いい加減にしなさい。これ以上私の友を侮辱することは許しませんよ」
氷のような冷たさでシルヴィアはそういい、僕の手をひき、強引に食堂につれていった。
食堂のカフェエリアに僕たちはいた。
周囲の視線のほとんどがシルヴィアに向けられている。
「それにしてもやっぱりシルヴィアはすごいね。一年生総代にえらばれたんだものね」
その学年を代表する総代はもっとも成績が優秀なものが選ばれる。一年生の場合は入学試験の成績がもっとも良かったものがそれに選ばれる。
僕の大好きなシルヴィアは成績も優秀なのだ。
「まあね、無理してこの学校にいれてもらったんだから、これぐらいはやらないとね」
そういい、シルヴィアは紅茶を一口すする。
かくいう僕は特殊技能一つだけでどうにかこの学校にはいることができたのだ。
「本当にこの学園に入ってよかったわ。リードならきっとこの学園にくるとおもってたのよね。私の推測があたってよかったわ」
うふふっシルヴィアは微笑む。
この笑顔を見れただけでこの学園に入って良かったと思う。
僕がこの学園に入ったのは彼女と再会し、恋人になり、最終的には結婚することが目的なのだ。
普通なら貧乏貴族と王位継承権を持つ公爵令嬢との結婚などありえない。
しかしこの学園に入学したならば、それも十分ありえるのだ。
このギルバート魔術学園の生徒はすべて同じ学生なのである。そこに身分の上下はない。
それがかつて魔王を打倒した魔術師ジョセフ・ギルバートが創設した学園の校風なのである。
まず第一目標のシルヴィアとの再会ははたすことができた。
しかもかなりの好印象で、である。
さい先はかなりいい。
しばらくシルヴィアと談笑したあと、僕たちはわかれた。
そしてその日の夜、リチャード・レッドフォックスに僕は決闘を挑まれた。
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