Ⅲ 片恋

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『おはよう』 『おやすみ』  朝晩の挨拶以外に、雅から玲のところには、毎日LINEが来る。玲には今、他にLINEをするような相手がいないのでよくわからない。これが普通の距離感なのかと首を傾げるだけだ。 (時々って言ってなかったっけ? それとも、これが時々?) 『今、何してる?』  雅から、そう聞かれることも多かった。大抵は夕飯作りと勉強だから、答えることに変化がなくてつまらないだろうと思う。それでもその日の夜のメニューを聞かれたり、雅が自分の好きなものを教えてくれたりする。玲は、たわいない話が出来ることがとても嬉しかった。  学校で会っても、雅とはほとんど会話らしい会話もしたことがない。それでも、クラスの中で目が合うことが前よりもずっと増えた。 (学校に行くのが、こんなに楽しみだったことはないなあ……) 『バーベキュー大会、玲の準備してるところに行くから教えて』  大会前日に来たLINEに思わず笑ってしまった。一応クラス別になってはいるけれど、当日はどこも人が溢れている。結構みんな好きなところにいるから、そう簡単には見つからないと思っているのだろう。  バーベキュー大会は日曜だった。自分から朝早く起きた玲に、兄の慶が声をかけた。慶は真剣な顔で玲を見つめる。 「玲、お前、一度病院に行った方がいいんじゃないか?」 「心配症だなあ、兄さん。大丈夫だよ。最近、学校でも色々頼まれることが多くて、忙しいだけなんだ」 「そんなこと言っても、お前、ずっと顔色悪いだろう。前より絶対痩せたぞ」  兄の言葉に玲は少しだけ眉を下げた。兄に心配をかけたくないとは、ずっと思っているのだ。 「確かに調子悪い時があるから、今度病院に行くよ。心配かけてごめん」 「約束だぞ。お前が行かないなら、俺が引きずってでも連れていくからな」 「えええ……。恥ずかしすぎる。兄さん、俺を幾つだと思ってんの……」  兄に頭をぐしゃぐしゃと撫でられて、玲は子どものように頬を膨らませた。そんな弟を見て、慶はほっとしたように微笑む。玲は心の中で兄に謝った。そんな仕草をすれば、兄がそれ以上強く言わないのを知っていたからだ。玲は雅や明石と約束したこの大会を、どうしても無事に終えたかった。
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