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Ⅳ バーベキュー大会
玲は高校へ行く道すがら、今日はバーベキュー日和だなと思う。見事な秋晴れで、空はどこまでも澄んでいる。
校舎の裏手に広がる広大な複数グラウンドの一つには、業者から昨日のうちに運び込まれたバーベキューセットがクラスごとに何台も置かれていた。この日の為に保護者に寄付を募ったら、信じられないほど豪華な食材や潤沢な資金が送られてきたそうだ。
等級の明示された霜降りの牛肉や、発泡スチロール箱いっぱいの見事なロブスターまである。ありがたいことに、差し入れの品々は全て下処理が済んで、後は焼くだけになっていた。
「……明石、なんなの、これ。俺、こんなにすごい食材でバーベキューしたことないんだけど」
「高槻、俺だってあるわけないだろう。この学校で問題なのは人手なんだ。生徒だけに任せるから、平気でこの食材を炭にしてしまう」
「マジでやめて……」
生徒の家から料理人が出て腕を競わないようにと、主催も参加者も完全に生徒のみと決まっている。玲としては、こんな食材を使えるなんてすごすぎて、興奮が抑えきれない。
「頑張ろうな、明石!」
「お? おお!」
明石も何だか嬉しそうだ。玲は他の委員たちと円陣を組んで、エールを上げた。
バーベキュー大会、と名前を付けているだけあって、最初に各クラスの対抗戦がある。バーベキュー委員が決まった食材十種類を焼き上げ、審査員である教員の元に持っていく。見た目、焼き加減、味などが審査され、高順位のクラスには豪華な賞品が出るのだ。それ以外は、学生たちが焼いて食べるだけのお気楽イベントだった。
玲は開始してすぐに、あちこちから悲鳴とブーイングが上がるのを聞いた。まともに火をつけることが難しいクラスが散見される。すぐ隣のクラスからも、ぎゃあ! と悲鳴が上がった。
「あ、明石、お隣が大変そうなんだけど」
手伝いに行った方がいいかな、と言う玲の言葉は、即座に止められた。体が半分動きかけていた玲の腕を、明石は行かせないとばかりに、がしっと掴む。ぎろりと睨まれて震えあがった。
「情けは無用だ。敵に塩を送ってる場合じゃないんだよ、高槻」
「て、敵」
肉、海鮮、野菜に渡る十品目を、時間内にうまく焼き上げるのは結構難しい。見た目も大事だが、火がちょうどよく通っていることも大切だ。炭にならないよう、火加減に注意して慎重に焼き上げなければならない。玲はいつのまにか、委員たちの中心になっていた。
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