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全て焼きあがると、明石が銀皿に盛って審査員席に慎重に運ぶ。一気に緊張が緩んで、ふーと大きく息をつき、手近にあった椅子に座った。
「お疲れ様」
すぐ横から、冷えた水のペットボトルが差し出される。玲は思わず笑顔で受け取った。
「ありがとう。えっ、みやび……」
いつの間に会場に来てたんだろう。
全然スマホ見てなかったでしょ、と雅に言われて、玲は慌てて画面を開いた。何件も入っているメッセージに慌てて謝ると、雅が笑う。
「いいよ、玲が頑張ってたの見てた。ここ、黒くなってる」
雅の指が頬をつつき、玲は慌てて手でこすった。焼いている時に何かついたのかもしれない。雅に触れられた場所がまるで熱を持っているようで、ひどく熱い。
「玲、だめだよ。こするともっと広がる」
雅はそう言って、手にしていたタオルで玲の顔をそっと拭いた。タオルはミントの爽やかな香りがするし、雅の顔はすぐ前だ。刺激が強すぎて、玲は思わず体を後ろに引いた。
「玲?」
「あ、いや、タオルが………汚れちゃうから」
「そんなこと、気にしなくていいのに。ああ、こっちも」
笑いながら顔のあちこちを拭いてくれる雅に、それ以上何も言えなくて顔がどんどん熱くなる。胸は激しく高鳴るばかりで、心臓が飛び出したらどうしよう、とありもしないことを考えた。
「も、もう他の材料を焼かないといけないから。またすぐ汚れるし」
ちょうど明石が玲の名を呼んだので、慌てて雅の腕の中から抜け出して立ち上がる。その後は振り返ることも出来ずに委員たちの元に戻った。
どんどん食材が運ばれ、玲は言われるがままに様々な食材を焼きまくった。次から次に人が来て並び、手を休める暇もない。手元の素材がほぼ空になり、終了の札を下げる頃には、昼をとうに回っていた。
玲たちは車座になって座り、ようやく自分たちも食べることができた。最後に焼き上がった肉を口に入れれば、じゅわっと口の中でとろけていく。
「うっま……!」
「うおお! こんなまともな肉が食えるとは。いやあ、今日はめちゃくちゃ焼いたなあ! 俺たちのところ、延々人が並んでたな」
「他のクラスの奴も来てたよ。高槻、焼くのめちゃうまかったもんな」
「急に頼んだのに、ホント助かった」
口々に礼を言われて、玲は嬉しくてたまらなかった。何だかこんな風に人と一緒に笑い合うのは久しぶりな気がする。その時、会場に一斉放送が流れた。
「皆さん、晴天の中、楽しい時間を過ごされたことと思います。では、これより本日の審査結果をお知らせ致します」
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