Ⅳ バーベキュー大会

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 陽気な音楽が流れる中、各委員たちが一斉に緊張する。玲は、手でロブスターの殻をパリッと剝いていた。 「三位、一年五組。二位、三年一組、栄えある一位は……二年七組!」 「やった――ああああッ!」  明石が椅子を蹴って立ち上がる。他の委員も拳を上げていた。 「たかつきッ!」 「あいしてるーっ」  ロブスターの身を口いっぱいに頬張ったまま、玲は椅子から引っ張りあげられてもみくちゃにされていた。ふざけて頬にキスまでしてきたのは明石だ。明石の顔をバチンと叩きながら、皆で肩を組んでピョンピョン飛んだ。玲の心は幸せな気持ちでいっぱいだった。 「ちょっと手を洗ってくるね」  もうじき表彰だからと言われて、玲は手洗い場に向かった。体中汗をかいているけれど、手を洗っただけで涼しくなり、気持ちもさっぱりする。 「……雅、聞いてる?」 (みやび、って。あれは泉?)  手洗い場のすぐ近くには小さな倉庫がある。その陰から聞こえるのは、雅の幼馴染の声だった。玲が思わず近寄ると、泉が雅の体を壁に押し付けていた。 「最近、LINEに返事もくれないし話しかけても上の空だし。ねえ、どうしたっていうんだよ」 「泉にどうこう言われる覚えはないだろう。お前もいい加減、独り立ちしたらどうだ」 「ひ、独り立ちって……」 「俺とばかりいないで、もっと周りを見ろってこと」 「お、俺はッ、俺は……」 「お前は大事な幼馴染だ。だけど、俺には好きな子がいる。悪いが、お前の相手ばかりはしていられない」  雅は、自分を押さえつけていた泉の肩をぐいと押す。泉は呆然として、ふらりと後ろによろけた。 (……好きな子が、いる)  玲の耳には、周りの音が何も聞こえなくなった。賑やかな音楽も人の声も、照り付ける陽射しの熱ささえ、わからなくなる。  ドクン、と胸が激しく痛んだ。全身に寒気が走り、熱かったはずの体が一気に冷えていく。堪らず、その場に座り込んだ。 (……痛い、胸が痛い)  左胸を押さえた玲の手から小さな花が生み出される。手の甲から、手首から、指先から。苦しい心を、代わりに花が告げようとするかのように。 (だめだ。咲かないで!)  玲の目に涙が浮かび、ぼろぼろと零れても、花は幾つも幾つも生まれ続ける。玲は必死で、地面に落ちた花を拾った。ジャージのズボンのポケットに乱暴に花を詰め込む。中で花がぐしゃぐしゃに潰れていく。今まで一度も、花をそんな風に扱ったことはなかったのに。 (まるで……自分の心みたいだ)  生まれても生まれても、顧みられることはない。 「……玲?」  顔を上げると、雅が驚いたように玲を見ていた。涙で雅の顔がぼやけて、玲にはよく見えない。 「どうしたんだ? 何で泣いて……」  玲は立ち上がって走り出した。これ以上、そこにいるのは無理だった。自分の指先から最後に現れた桔梗を、雅が拾ったことにも気づかなかった。
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