Ⅴ 花占い

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(大会の後、何も言えずに来ちゃったな。悪かったなあ)  明石や皆に、ありがとうと言いたかった。もっと前から心を開いて、仲良くなれたらよかったと思う。  病院に来てから、玲はよく不思議な夢を見るようになった。  花占いをする子の夢で、白い空間の中に一本の白い花が浮かぶ。円形に花びらが並び、真ん中は黄色だ。風にゆらゆら揺れる可愛らしい花はよく見る花だ。白い指がその花を数える。確かめるように一枚一枚、花びらに指で触れる。口元の言葉は聞こえない。    心の中で、玲はそっと尋ねる。 (どっちだった? 好きだって? それとも?)  花びらを数えていた者が、悲し気に微笑む。その口元は、よく知っている誰かに似ている気がする。 (何であんなに悲しそうなんだろう?)  「玲くん、気分はどうですか? ちょっと外に行ってみましょうか?」  昼間でも眠って過ごすことが多くなった玲に、日光浴だけは許可されていた。すっかり顔見知りになった看護師と玲は、屋上に出るエレベーターに向かいながら、花占いの話をした。 「ああ! 懐かしいわ。子どもの頃、よくやりましたよ。花は何でもいいんでしょうけど、有名なのはね、白いマーガレット!」  ああ、そうか、と玲も思う。  幼い頃、少し上の従妹が伯母と共に家に遊びに来たことがあった。その時に庭に咲いていたマーガレットの花で占いを始めたのだ。ませていた従妹には好きな相手がいて、最後の一枚を千切って両思いだと喜んだ。 「ふふふ、あれね、ちょっとずるいんですよね」  玲が首を傾げると、看護師はにこにこと笑う。 「マーガレットの花びらってね、奇数なんですよ。好き、からはじめたら、最後はどうなります?」  玲は、心の中でマーガレットの花びらを数えた。あっと思う。二人で目を合わせて笑った。 「や……りかたを、まちがえ……なけれ……ば」 「そうです。やり方を間違えちゃだめ。きらい、から始めたらだめなんです」  ――やり方を間違えちゃだめ。  看護師の言葉が、玲の心に深くしみ込んでいく。  その晩、ちょうど夢を見た。慎重に花びらを数える相手の顔も姿も見えない。ただ花と指先が見えて、人の気配がするだけだ。玲が思い切って花に手を伸ばすと、相手が静かに止めた。 「……だめだよ、これは特別な花。想いが形になったものだから。大事な、心の作った花なんだ」 「じゃあ、やり方を間違えないで。その花は好き、から数えるんだ。絶対うまくいくから」 「えっ」 「好き、から始めて。逆はだめ」  夢から覚めると、ほっと息を吐く。夢の中で話した相手はいつも真剣に花を見ていた。きっと好きな子がいるんだ。   (伝わっただろうか、……伝わってほしい。どうか、幸せになってほしい)  ただの夢かもしれないけれど、彼らが幸せになってくれたなら嬉しい。
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