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小話 花ほころぶ
久々に雅の休みが取れた日。二人は連れ立って買い物に来ていた。
「あ……」
「どうした?」
玲が広いショッピングモールの中で突然、立ち止まる。雅が玲の視線の先を見れば、そこには懐かしい制服姿の学生たちがいた。
「ああ、うちの高校だな。今も制服、変わってないのか」
「いや、少しずつ変えてはいるみたいだよ」
雅が見ている集団とは違う場所を玲は見ていた。
楽しそうに連れ立ってカフェに入る彼らから少し離れて、立ち止まっている男子がいる。集団をじっと見つめた後、彼はカフェに入らずこちらに向かって歩いてくる。
彼が玲の脇を通り過ぎた時、ふわりと花の香りがした。
遠い日の自分を思い出して、玲はモールの出入り口に向かう彼から目が離せない。すると、カフェの中から大きなブーイングが上がった。
「帰るのかよ!」
「悪い! また明日な!」
すらりと背の高い男子が玲たちの脇を通り過ぎ、出入り口に向かって走っていく。先に歩いていた子が、名を呼ばれて足を止めた。二人は二言三言話した後、笑顔で一緒に歩き始める。
もう痛むことはなくなった玲の左胸が、じんわりと温かくなる。
雅はそっと、玲の左手を握った。ほっそりした手の薬指には、雅と揃いの指輪が輝いている。
――もう絶対、離さないから。
耳元で囁く雅に、玲は柔らかな微笑みを返した。
✿・・・✿・・・✿・・・✿・・・✿・・・✿
本編よりほんの少し先の二人を添えて終わります。毎日のスターの他に、ペスタやペコメもありがとうございました!病を扱う話なので心配でしたが、皆さまの優しいお気持ちにとても励まされました(о´∀`о)
最後までのお付き合い、心から感謝申し上げます🌸
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