Ⅱ 雅

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 放課後、玲が懐かしい思い出を辿りながら通りを歩いていくと、駅前まで来た。鉄道系列のスーパーを見て、夕飯の材料が足りないことに気づき、慌てて飛び込む。買い物を手早く済ませて店を出ると、ちょうど近くのオープンカフェにたむろう人々が見えた。テイクアウトもできる店は何時も人気だが、玲の小遣いでは気軽に立ち寄れる店ではない。 「あれ。玲?」  テラスにあるテーブルの一つから名を呼ばれて、玲は足を止めた。雅が手を挙げて立ち上がった。姿を見ただけで、どきんと胸が鳴る。 「買い物?」 「うん、ちょっと夕飯の買い出し」  雅がすぐ隣まで来て、玲の持つビニール袋に目を留めた。思ったより買い込んでしまって、袋はずっしりと重い。隠す必要なんかないのに、玲はなんとなくビニール袋を後ろ手に持った。 「夕飯? 玲が作るの?」 「俺の係なんだよ。うち、親がいないから」  普段なら言わない言葉がさらっと口に出た。雅が目を瞠るのを見て、ああ、余計なことを言ったと思う。 「雅? あれ、玲くん?」  にこにこしながら、泉が歩いてきた。泉が雅の肩に手を回し、ちらりとこちらに視線を投げてくる。落ち着いて静かな雅と華やかで陽気な泉。タイプの違うイケメン二人が並べば、行き交う人々の視線がちらちらと注がれて居心地が悪い。同じ制服を着ているのに場違いな感じが半端なくて、一気に心が暗くなる。 「あ、じゃあ、俺、急ぐから」  玲は目を逸らして、カフェから早足で逃げ出した。指にビニール袋の重さが食い込んで痛い。雅が名を呼んだけれど、痛みに集中して、聞こえないふりをした。  珍しく早く帰った兄と夕飯を食べ、入浴を済ませて自室に戻った。髪を拭きながら、全身が映るスタンドミラーの前に立つ。女子みたいだからいらないと言ったのに、兄が高校生にもなったら身だしなみに気を遣え! とくれたものだ。  鏡の中には、目が大きくて睫毛が長く、小さな唇がへの字に曲がった顔が映っている。体は細くて白くて、背は百七十センチちょうどだ。以前より体が少し痩せたような気がして、しゅんとした気持ちになる。  夕方のカフェで、雅の肩に手を置く泉の姿が目に浮かんだ。 (どうせ女顔なら、あそこまで綺麗ならいいのに。体だって、もっと筋肉がムキムキにつくとか、うんと目立つような特徴が欲しかった……)  
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