狂った祝祭

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狂った祝祭

第一章  「むかしむかし、あるところに小さな村がありました。その村では森の中に、やぶきりおにというそれはそれは、恐ろしい鬼がおり、悪さを働いたものを懲らしめていたのでした。村人たちはやぶきりおににおそれをなして、金や銀などの宝物をお供えしてまつりましたとさ」 どこにでもあるような、よく耳にするおとぎ話しの、よくある予定調和だが、よく読むとノンフィクションの記載に限りなく近いことがわかった。「むかしむかし」と伏せられた時系列「あるところに」と伏せられた土地名。更に「その村」と村の名前までも伏せられていることだ。フィクションにせよノンフィクションにせよ基本的なことだと言われる5W1Hがあやふやなままにされている。 唯一、明確になっている情報は「やぶきりおに」という存在と「それが森の中に住んでいる」ということだが、この物語は急速に破綻する。悪さを働いたものを懲らしめている鬼を、どうして悪くない村人たちが祀っているのか、金や銀という宝物はどこから出て来たのか。作中では明らかにされていない。おとぎ話しはたいていが、むかしむかしあるところが始まるが、伏せているということは「実際にあった出来事だから知られてはいけない」厳密には「知られてはいけない何かを共有している」ということだ。 知られるとどうなるか、それが噂となってインターネットで拡散し、興味本意で村に接近する者が急増する顛末を迎えてしまう。私もそんな村を訪れてその地域の風土や習慣を紹介するライターの端くれだが、インターネットで拡散した噂より真実を記載しようと務めている。呪われた村と言われる「いかい村」は実際どんな村なのか。この目でしっかりと確認しなくては。
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