狂った祝祭

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第八章  「村の戒律を決めなければなりませんが、暫定であれリーダーになられた、あずまさんの就任祝いをしたいと思います」  むらせさんが開口一番に、村人たちにそう告げた。  「でしたら、私がたくとさんに変わって、あずまさんのご紹介スピーチをさせて頂きたいんですが、宜しいですか?」  まといさんが意見する。  「それは是非、お願いします。ご紹介スピーチ頂けるなんて勿体ないっ!」  「許可頂けたようなので、早速、この度リーダーに就任された、杉沢あずまさんの紹介スピーチを私のほうからさせて頂きます。杉沢あずまさんは、これまでこの村にやってきたユーチューバー達とは異なりました」  まといさんは、スピーチの為に用意したと思われる紙面を静かに読み上げる。  「あずまさんを間近で見てきて感じた事を、手前味噌ながら、この場をお借りして述べさせて頂きます。まずは、先日のお酒の席にて、村人たちに昨今のユーチューバーの振る舞いについてお話しされた事や、嘗ての婚約者、たくとさんがこの村で行った事についての推理をなさった事。本当に色々な事をよく知っておられました。例えば『土にはPETがあり、ひとの遺体のタンパク質まで分解してしまう事』『鯉は餌になる物なら人の遺体だろうが飲み込む習慣がある事』更に『かかしは、本物の遺体とすり替えても気付かれ難い事』など。しかし、どうしてそういうことをご存知なのか、よくよく考えてみれば、実際にやったひとでないとわからない事です」  「随分ユニークなご紹介ですね。まるで俺が人殺しみたいですが」  「ご紹介、続けます。あずまさんは、その次にたくとさんを人殺しだと指摘しました。確かにそれは事実には違いません。しかし村人たちが報復に来るなどと告げ、たくとさんを自殺に追いやった」 「たくとさんが自殺しただと?」「でも、何年も人を殺して俺たちを騙し続けた殺人鬼だろう。いないほうがいいっ!」と村人たちが騒ぎ立てる。  「俺が、たくとさんに自殺教唆をしたというんですか?」  「この村にいては、生きづらくなるとか」  「お言葉ですが、俺は一度もたくとさんに『死ね』とか『自殺しろ』とか口にしていませんよ」  確かに、あずまさんはそんな事を口にしていない。完全に自分の意志で自殺したんだ。  「しかし、あれだけの事を言われたら自殺するしかなくなります。あなたは、たくとさんを殺したんです」  「それは、俺が言うまでもなく、そういう目にあうでしょう。後で知って後悔するより先に教えてあげたほうがいいと判断してそう言ったんですよね」
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