狂った祝祭

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「さぁ、ネットで今話題の『いかい村』にいよいよ到着しました。村の方に会ったら声をかけてみようと思います」 彼は旅行ユーチューバーの杉沢あずまさん、明るくて、優しく、色々な事をよく知っており、旅行先に対する見識もしっかりしている。こうした村が題材になるメディアはたいていが村人が悪役として描かれる事が多いが、許可もなく入りこんではあれこれと撮影し、これ見よがしに拡散する。村人たちからすれば、信仰対象や土着神を怪異呼ばわりして汚しながら、被害者のように振る舞うが、人の家に土足で入り込んで好き放題されたら誰でも怒るのは当たり前なのだと。これまで目にしてきたユーチューバーとは何か違い、私に近い何かを持っている。初対面で、私はそう感じていた。 「村の人たち、取材に応じてくれますかねえ」 「相手は俺たちと同じ人間ですから、話せばわかってくれますよ」 心配する私にあずまさんは、そう声をかけてくれた。不意に、山奥の方向から数人の人影が見え、私たちを発見したのか近付いて来る。 「あら、お二人はどちらから来られたのかな」 壮齢の男性が私たちに訊ねて来た。 「東京からです」 「お二人はひょっとしてご夫婦か、お付き合いしてらっしゃるカップル?」 若い女性が訊ねて来る。 「いえ、仕事の同僚です。こちらには地域の取材に来ています、あの皆さまは」 「きょうさん、皆さまに名前を聞くときは、まず名前を名乗らなきゃ。あ、俺は杉沢あずまと申します。こちらの女性は丑首きょうさん」 「杉沢さんにきょうさんですか、こちらも自己紹介がまだでしたね。私は巨頭杉むらせと申しまして、こちらの二名は犬鳴まといと青木ヶ原たくとです」 「そうですか、ご紹介痛み入ります。出来れば取材の許可を頂きたいんですが、宜しいでしょうかね?」 「テレビ局か何か?」 「いえ、個人的に動画に収めさせて頂きたいんですが。あ、映してほしくないものは編集しますので遠慮なく言って下さい」 まといさんの問いに、あずまさんは、そう答えた。 村では、池の鯉の餌やりや、からすがボロボロにしていった案山子の新調に、畑仕事などをするというので、その様子から撮影して貰う事にした。
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