狂った祝祭

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第十章  すっかり夜も更けて、暗くなると、村のリーダーの就任式はお開きとなり、私は杉沢あずまと部屋に帰る事になった。 それにしても、この杉沢あずまという人物は本当の姿は何者なのか、個人的に調べてみる必要がある。もし、本当にサイコパス殺人鬼ならば、ニュースやワイドショーなどでも耳にしていてもおかしくはない。それに一緒にいる私自身が一番危険だ。まず、最初に殺されてもおかしくない筈だ。 こうした山奥ではスマートフォンの電波が届くとは考えにくいが、この村が新聞をとっているとも思えない。藁にも縋る思いでスマートフォンの液晶を開いてみる。 『杉沢あずま(1979年10月3日〜2020年)日本人ユーチューバーとして活躍している他、秘境観光大使としても活動中。顔出しなしで、スマートフォンのカメラ視点での撮影をスタイルとしている。撮影にした村が山火事で消失したり、壊滅している事に遺憾の意をコメントしている』 良かった。スマートフォンの電波は来てる。杉沢あずまは実在する人物のようだ。検索エンジンの記載に間違いはないみたい。でも撮影した村が火災にあったりなくなったりしているのも引っかかるが。この記事からは杉沢あずまには良心はちゃんとあるというのも伝わって来る。続いて村の火災などにも検索してみよう。そう思った刹那。むらせさんの家から声が聞こえて来る。  「あの人の前では祝う気持ちになれないので、お餅を焼いて、ひっそりと祝いましょう」  まといさんの声だ。個人でお餅を焼きながら内密に祝おうとしているようだ。  「お腹いっぱいなるようにたくさん焼いたので、たくさん食べて下さいね」  まといさんも優しい所はあるみたいだ。酒の席ではあんな事を言ったけれど、音はいい人なのかも知れない。
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