狂った祝祭

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第二章  その日の晩、私とあずまさんは、村長であるむらせさん宅へ招かれ、村人たちに紹介して貰う運びとなった。  「この村の皆さまは、戒律をしっかり守りつつやぶきりおにの信仰を続けていらっしゃる。素晴らしい村だと思います」  あずまさんはアルコールが入ると、随分饒舌になるようだ。村人たちの前で臆せず、思った事を口にする。  「それなのに世のユーチューバーと来たら、村だのなんだのと聞けば、許可もなく土足であがっては、色んな物を撮影し、ネットで拡散しまくってそれで観覧数稼いでお金貰うんですよ。俺から言わせれば、こういうの住居不法侵入だし、プライバシーの侵害、著しい名誉の毀損に肖像権の損壊に加え、侮辱罪に値する行為です」  「あずまさん、それは少し言い過ぎですよ」  酔っているとはいえ、流石に発言が過ぎると諫めるが、村人たちはそうではなかった。  「あずまさん、よく言ってくれた。みんなの味方だっ!」  「そうだ、もっと言ってやれあずまっ!」  「あずまさんの仰る通りです。私たちの村は都会の若者の金儲けの為にある訳ではないっ!」  「むらせさんも、あずまさんの気持ちにえらく関心していらっしゃる。さあみんな、あずまさんをもっとたてろっ!」  「私の将来の夫もそう言ってます、あずまさんを応援しましょう」  たくとさんと、まといさんも、あずまさんを推すあまり、部屋中にあずまコールが響き渡る。たくとさんはこの村を牽引するリーダーだけあり、村人たちからも信頼は厚いようだ。  「いやいや、この村のリーダーは俺じゃなくてたくとさんですから、たくとさんを推して下さい皆さまっ!」  「お恥ずかしい。それからみんな、あずまさんはこの村の戒律を素晴らしいとも言ってくれたんだ」  「こちらこそお恥ずかしい。確かにこの村の戒律は素晴らしいです。これをもっと皆さまの暮らしが良くなるように改良していけば、また、素晴らしい村になります」  「改良?」たくとさんが眉間に皺を寄せた。  「なにか」  「戒律に何か至らない点があるというんでしょうか?」  「ルールというものは、時として人を操る為に存在し、時として人を縛り付ける為に存在するものですが、完璧ではない人間が作ったものなので勿論、完璧ではない」  「つまり村の戒律は不完全だと?」  「だからこそ、見直す必要はあると思うんです。この村に限らず、この日本も。そういえば村で何か起こったら誰に相談すればいいんです?」  「たくとさんに相談すればいい。たちどころに解決してくれるから」  村でのトラブルは、たくとさんに相談しているようだ。 しかし、不思議と初めて入った村だというのに、トラブルが一切起こる気配がしない。それどころかみんな歓迎ムードだ。
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