狂った祝祭

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 「皆さま、お夕食の準備が整いました。どうぞ召し上がって下さい」  食卓に夕食が運ばれて来た。あずまさんは旅行に慣れている為か、何が出されても、それはその地域の郷土料理なので「ゲテモノ」と言ってはいけないという。地域の食生活に対する侮辱は、その地域ごと侮辱しているのと変わらないとも。この村に限っていえば、皆さまが時間をかけて収穫した物を、部外者の我々に分けてくださっている事を忘れてはいけないという。  「お夕食はなんですか?」  「山田さんと、田中さん、村岡さんを鍋に入れて煮込んでいます」  「へ?」地域によって方言や訛があるが、これは明らかに人名だ。まさかその人たちを鍋に入れたのか。そう考えてしまうのは私の個人的な先入観であり、偏見であり、一方的な勘違いかも知れない。 郷土菓子の「今川焼き」は都道府県によって「大判焼き」「二重焼き」「びっくり饅頭」と呼び方が違うように正解は存在しない。が、こう呼ぶのが正解だと、主観を他人に押し付ける人と同じになるわけにはいかない。それはマウントを取る行為だ。ひょっとしたら、鍋の具材をこの村ではそう呼んでいるのかもしれない。  「山田さんって人が育てた野菜と、田中さんが育てた鶏、村岡さんが釣ってくれた魚です。その人が苦労して収穫した物に敬意を払ってここではそう呼んでいます」  「そうですか、リスペクトされてるんですね。それにしても美味しそう、頂きます」  この村に来てからの初めての食事だ。ごろっとした大きめの野菜に、骨まで火が通った魚も食べやすい。鶏も肉付きが良くとても美味しい。それにお出汁でとったスープも体の芯まで温まる。  「きょうさんも、お酒をどうぞ」  「あ、ありがとうございます!」
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