狂った祝祭

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 「面白い推理です。しかし、俺がやぶきりおにだという根拠はなんですか」  たくとさんが反論する。  「あなたはここの村のリーダーです。村人のトラブルを解決する役目がある」  「当然ですよ」  「そこで、やぶきりおにに成り済まして違反者を自らの手で処分した。そればかりか、村人に遺体の処理を手伝わせた」  「ではお聞きしますが、俺はどうやって戒律違反者を見付けて処分したと言うんですか?」  「村の皆さまの色んな話しを耳にするわけですから、怪しい人物をマークして見張っていれば可能ですよ。ましてや村の面積はそう広くはないから見付けるのも難しくはない」  「俺がそんな事をする人間に見えますか?」  「さぁ、村の皆さまに、訊いてみて下さい」  異様な光景だ。村人たちは口を揃えて「あずまさんは仕事を手伝ってくれたり」「村の事を考えてくれています」「酒の席でも言ってたでしょうっ!」と、あずまさんの推理を信じている。  「待って、たくとさんはそんな事するような男じゃない」  「そうだ、たくとはやぶきりおにではないっ! たくとは違うっ!」  まといさんと、むらせさんは村人たちを宥めるが完全に部が悪い。  「俺がそんな事をしたという証拠はどこにあるんですか!」  「では、していないという証拠はどこにあるんですか?」  「それは、ない。しかし、俺がそんな事をする動機はなんですか?」  「動機というか、そうするメリットはこの村を自分の思い通りに出来る事です。あなたは、まといさんの婚約者でもあり、むらせさんの息子でもある。恐らく離婚して母方についたが、他界しています。それなら墓があるはずなんですが、この村には墓がない。お母さんのご遺体、どうしました?」  「入って来たばかりのよそ者のあなたに何がわかるんですか」  「そこは否定しませんでしたね。やはりあなたがやぶきりおにでしたか」  名探偵、みなを集めてさてといい、という俳句があるが、あずまさんの推理には続きがある。  「しかしどうでしょうね。村人をずっと騙し続けて来た殺人鬼と、これからずっとこの村で暮らすとなると、いつ殺されるかわからないし何をするかわからない。おまけにずっと監視されているとなると気が気でなくなるでしょう」  「村人は、話し合えばわかってくれる筈だ」  「そうは簡単にはいきませんよ。針の筵で暮らすくらいなら、いっそ、あなたを殺したほうが安全だと、攻撃をしてくるでしょう」  「彼らは、そんな人間じゃあない」  「これがあなただけならまだしも、むらせさんやまといさんにも、攻撃を仕掛けて来る。あなたがここにいればいるほど、生きづらくなって苦しい思いをし続ける。それを飲み込めるなら、あなたにも厚生の余地はあると思います」  「そうなのか」  「けれど、私たちもたくとに騙され続けて来たのだろう。信じてやりたいが、簡単にはいかないんだ」  「そうか、俺が信じられないか。少し、一人にさせてくれ」  たくとさんは村の広場から去っていってしまった。
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