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第六章
あれからたくとさんは家に閉じ籠もったまま、出て来ない。
あずまさんとむらせさんは、村のリーダーから引き摺り降ろされた、たくとさんに変わって、次のリーダーを決めるべく話し合いをしている。それから、忌まわしい村の戒律も改善しなければならない事も。
私は違和感を拭えなかった。呪われた村の過去の殺人事件、それを突然やって来た青年が名探偵の如く解き明かし、犯人であろう村のリーダーを引き摺り降ろした。まるで推理小説のラストシーンだが、あまりにもスムーズ過ぎる。そもそも何故あずまさんが、この村の秘密を解き明かす必要があったのか。人生というものは上手く行き過ぎている時ほど恐ろしくなるものだ。そして、揃い過ぎた証拠ほど捏造されたものである可能性が高くなる。
「村に来たばかりのよそ者の俺が意見するのも気が引けるんですが、むらせさんが村のリーダーとして返り咲くというのはどうですか」
「私はもうこの歳です。返り咲いたとして誰が私について来ますかね」
「むらせさんは、村のリーダーをしていた経験がたくとさんより長く、この村の事を良く知っています」
「しかしながら、何時まで体が持つかわかりませんよ」
「そうですか? ではまといさんは?」
「婚約者があの状態ですから、それどころではないと思います」
「でしたら、村人の中から候補者を募って決めるしかなさそうですね」
「時間が随分とかかるでしょう。無理を言うようで申し訳ないですが、あずまさんがリーダーをされるというのはどうですか?」
「俺にですか?」
「勿論、次が埋まるまでの間、暫定でという事ですが。村人たちはみな、あなたの事を慕っていますし、反対することはないと思います」
「では、むらせさんの推薦で、暫定的になったと、伝えておきます」
ほぼ消去法だが、暫定的にあずまさんが村のリーダーになったようだ。こんな奇妙な話しは聞いた事がないと思ったが、この状況ではそうするしかないのかもしれない。
「誰かっ! 誰かきてっ! たくとさんがっ! たくとさんがっ!」
まといさんが血相を変えて、私たちのもとへ転がるように走って来た。
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