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「俺、髪染めよっかなぁ……」
自分の髪の毛先を指で弄りながら、そんなことを言ってみる。
うちの学校では校則違反にならないし、アリかもしれない。
そんなことを、わりと本気で考えている時だった。
「止めとけ、優二~。将来、ハゲるぞ?」
「げっ!その声は……」
背後から聞こえた声に、思わず声を上げる。
振り返れば、そこには俺の予想通り……担任教師の、桜井勝人(さくらいまさと)先生の姿が。
「『げっ!』とは、なかなか酷い反応だな~、優二くん?」
「す、スミマセン……」
正直、俺は桜井先生のことが、少し苦手である。
何故なら、この桜井先生の担当教科は──俺の大の苦手な、数学だからだ。
「そんなに俺のことが嫌いか~?」
「嫌い、というか……苦手なんですよ!に・が・て!!」
「それって、ほぼ同じなのでは……?」
「しっ!余計なこと言うな、光一!」
そう……桜井先生のことは、別に嫌いじゃない。
今のところ、俺に好意を寄せている感じでもなさそうだし。
ただ、担当教科が数学っていうところが、苦手なだけで──。
「よぉーし、じゃあ先生が放課後、特別授業をしてやろう。有難く思え~?」
「ひいっ!か、勘弁してください!!」
……前言撤回。
やっぱり嫌いかもしれない──桜井先生。
「とにかく、髪は染めるなよ~?」
「なんでですか……」
「言っただろ?将来、ハゲるって」
「ぐっ……それは嫌だ!」
「なら、大事にしとけ~。髪なんか染めたら、別れが早まるかもしれないぞ~?」
「うぅ……なあ、光一。髪って染めたら、本当にハゲるのか?」
「え?う~ん……心配なら、桜井先生の言う通りにしておいた方が、いいんじゃないか?」
「ちえっ。んじゃ、そうしておくかぁー」
「おー、それがいい。ついでに、俺の放課後居残り特別授業も聞いていくといいぞ~?」
「それは本気(まじ)で、遠慮します!」
何故ここまで、桜井先生が止めるのか……この時の俺は、まだ知らない。
「桜井先生……もしかして優二の髪の色、好きなのかな?」
そして光一が、そんなことを呟いていたということにも、俺は気付いていなかった。
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