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──あれから十年。
僕は人生に右往左往しながらもなぜか国家資格に合格し、来週から弁護士としての道に進もうとしていた。
別に弁護士になりたかったわけではない。
ただ、もう一度告白する自信が欲しかったから。
国家資格という難易度の高いものをクリアしたのであれば、告白なんて簡単なもの。
そう思っていたのに、電話に出てもらえないんじゃ、意味なかったようだ。
もう彼女のことを諦めようとした直後、スマホから通知音が鳴る。
もしかして、彼女か!?と思ったら中学三年の頃に作られたLINEのグループトークの通知音だった。
懐かしいなと思いながら、トークを開く。
『これ、中学の時のやつだよな!?』
そんなメッセージと共に何かの記事のURLが添付されていた。
新手の詐欺かと少し疑いもしたが、躊躇せずにそのURLをクリックする。
開いた記事のタイトルには【居眠り運転トラックが二十八歳女性をひき逃げ!即死か?】と書かれていた。
─────
東京都内に住む二十八歳の女性が居眠り運転をしたトラックに跳ねられた事件が11時35分頃、起こった。
トラックは依然ひき逃げで逃亡中。身元や居場所を現在特定中。
女性は病院に搬送されたが、即死であった。
尚、女性の身元はまだ特定されていないが、所持品の中にカンナと名前が記載されている日記を発見。
カンナさん(仮名)の身元もこちらを特定中だ。
他の所持品としては、スマホ・財布・化粧ポーチ・ちぎられたストラップなどである。
現在、ひき逃げ事件として捜査中。
─────
記事の中身はそう書いてあった。
僕は、一瞬なんのことか分からなかった。
それは彼女の名前であった。でもまだ身元は特定されていないみたいでまだ彼女本人ではない。ただの同姓同名。そうに違いない。
そう思いたかったのに。
彼女の所持品の中に中学の頃から持っていたお茶犬のストラップ。
令和の今に所持している人なんてそうそういないだろう。
しかも彼女が大事そうに持っていた限定品のストラップが記事の写真に写っていた。
嫌でも彼女だと思うしかなかった。
僕の悲しい気持ちに追い打ちをかけるように、他の中学の友人たちがグループトークの中で新たな情報を送ってくる。
『やっぱりそうだ!同級生のカンナだ!ニュースでも身元特定したって!』
『ほんとだ……同級生でこんなニュース見たくなかった……』
『こうなるんだったら、早く同窓会開けばよかったな……』
『それな……ちょうど来週でしょ?同窓会』
『なんか来週、同窓会開くタイミングじゃなさそうだよな……』
どうして…?
僕は夢だと思い、頬をつねると痛いという感覚。
これは夢じゃない。現実なんだ。
僕が最終的に告白しようと決意したあの時。
電話した時。スマホの発信履歴を見ると12時5分に発信していた。
あと30分早かったら。
もしかしたら、彼女はこの世にいたかもしれないのに。
この想い、彼女がいなくなる前に伝わっていたら。
そんな想いばかり胸に募る。
現実を受け入れたくなく、僕は布団の中に潜る。
机に置いたスマホの着信が何度も鳴る。
きっと、彼女のことを好きだって知っている友人が僕のことを心配してかけてきてくれているんだろう。
今日告白する!なんて言ってたのにこの様だからな。
ありがとう、友人。
でも今は誰とも連絡したくない。ひとりにしておくれ。
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